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2026.06.30

パワハラとは? 企業側にとっての考え方・具体例を弁護士がわかりやすく解説!

パワハラとは? 企業側にとっての考え方・具体例を弁護士がわかりやすく解説!
アイコンこの記事を書いた弁護士

鈴木 謙太郎

弁護士
虎ノ門法律経済事務所 池袋支店
池袋支店長
大好きな街池袋で、街の法律家として、皆様の笑顔を取り戻すお手伝いをさせて頂きます。キーワードは、「気軽さ・話しやすさ・きめこまやかさ」です。
依頼者が「話しやすい」環境づくりを心掛け、依頼者の不安を払拭できるよう努めさせていただきます。

目次

1. はじめに

ニュースや普段の会話においてもよく耳にするようになったパワハラという言葉。

「威圧的な言葉を使っちゃいけないんでしょう?」

「暴力行為なんてもってのほかなんでしょう?」

と、大まかにはどういったものなのか理解していても、具体的な内容を詳しくご存じでない方は多いのではないかと思います。

そこで、本記事においては、パワハラの定義や具体的な内容を裁判例から、対応方法などについて弁護士の立場から詳しくご説明していきます。

コンプライアンスがより重要視されるようになった昨今、企業経営者や人事担当者がパワハラの知識を持っておくことは不可欠です。本記事をお読みいただき、きちんとした正しいパワハラの知識を身につけましょう。

 

2. パワハラ(パワーハラスメント)の定義

まず、パワハラ(パワーハラスメント)の定義についてご説明いたします。

労働施策総合推進法第30条の2第1項は、パワハラが成立するための要素として、以下の三点を掲げます。

・① 職場において行われる優越的な関係を背景とし

・② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

・③ 労働者の就業環境が害されること

以下では、それぞれの要素について説明していきます。

 

(1) 「① 職場において行われる優越的な関係を背景とし」とは?

「優越的な関係」とは、業務を行うにあたって、抵抗や拒絶をすることができない可能性が高い関係のことを指します。

パワハラといえば、上司から部下に対して行われるもの、というイメージを持っている方が多いかもしれませんが、上司と部下の間だけに限りません。同僚または部下が集団で行うものや、業務に必要な専門的な知識を持つ同僚または部下からの行為等、同僚同士や部下から上司に対して行われる行為も、優越的な関係にあてはまり、パワハラに該当する可能性があります。

 

(2) 「② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」とは?

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、業務上明らかに必要のない言動、業務の目的を大きく外れた言動、業務を行うための手段として適切でない言動、行為の回数や行為者の人数、その手段や状況が社会一般の常識からして許される範囲を超えた言動などをいいます。

 

(3) 「③ 労働者の就業環境が害されること」とは?

「就業環境が害されるような言動」とは、その言動によって、従業員が身体的または精神的に苦痛を感じて、職場環境が不快なものになり、仕事をする上で見過ごすことができない程度の支障が生じることをいいます。

これは「言動を受けた本人が不快に感じたかどうか」ではなく、「社会一般の労働者が同じ状況で同じ言動を受けた時に就業環境が害されたと感じるかどうか」を基準に判断されます。

 

パワーハラスメントとは?労働試作総合推進法が定める3つの要素

 

3. パワハラの類型とは?

厚生労働省は、パワハラの類型として、以下の6つを掲げます。

・Ⅰ. 身体的な攻撃

・Ⅱ. 精神的な攻撃

・Ⅲ. 人間関係からの切り離し

・Ⅳ. 過大な要求

・Ⅴ. 過小な要求

・Ⅵ. 個の侵害

以下では、それぞれの類型について、ご説明していきます。

 

(1) 身体的な攻撃

身体的な攻撃とは、暴行や傷害を指します。

具体的には、上司が部下に対して、殴打、足蹴りにすることが典型的な例として挙げられます。暴行や傷害に該当すればよいので、殴る、蹴るなどの直接的な攻撃でなくても、物を投げつける等の行為も身体的な攻撃に当たりますし、軽く小突くなどの比較的程度が軽い行為であっても違法と判断される事例もあります。

他方、業務上関係のない、単に同じ企業の同僚間の喧嘩は、優越的な関係に基づいているとはいえませんし、業務に関係しないので、パワハラには該当しないと考えられます。

 

(2) 精神的な攻撃

精神的な攻撃とは、ひどい暴言や侮辱、脅迫や名誉棄損等のことを指し、言葉や威圧的な態度で、相手を傷つけたり、精神的な苦痛を与えたりする言動のことをいいます。

具体的には、上司が部下に対して、人格を否定するような発言をすることが典型的な例として挙げられます。そのほかに、「無能」「給料泥棒」等の人格を否定するような言動、「クビにする」等の失職させることをほのめかす言動や、他の従業員のいる前で大きな声で威圧的な叱責を繰り返す、能力を否定したり罵倒したりするような内容のメールを、本人だけでなくほかの従業員も見ることができる形で送信する、必要以上に長時間にわたって厳しい叱責を繰り返すなども、精神的な攻撃の例として考えられます。

他方、遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動がみられ、再三注意してもそれが改善されない部下に対して上司がある程度語気を強めて注意をするというのは、業務の適正な範囲であるといえますし、就業環境を害するともいえないのでパワハラに該当しないと考えられます。

 

(3) 人間関係からの切り離し

人間関係からの切り離しとは、職場内で特定の従業員を無視したり、仲間外れにしたり、別室等に隔離を行うなどして、その従業員を孤立させるような行為のことをいいます。

具体的には、自身の意に沿わない社員に対して、仕事を与えず、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすることが典型例です。そのほかに、他の社員との接触や協力を禁止する、陰口や悪い噂を流すことで特定の従業員を孤立させるなども人間関係からの切り離しの例として考えられます。

他方、新入社員を育成するために短期間集中的に個室で研修等の教育を実施するというのは、業務の適正な範囲を超えていないといえますので、パワハラに該当しないと考えられます。

 

(4) 過大な要求

過大な要求とは、従業員の能力に対して明らかにレベルの高い業務を担当させたり、業務上必要のない作業をさせたり、仕事の妨害をしたりすることをいいます。

具体的には、上司が部下に対して、長期間にわたり、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、過大なノルマを課した作業をさせたり、職務に直接関係のない過大な作業を命ずることが典型例です。

他方、社員を育成するために、現状よりも少し高いレベルの業務を任せるというのは、業務の適正な範囲を超えていないといえますので、パワハラに該当しないと考えられます。

 

(5) 過小な要求

過小な要求とは、業務上の合理性がないのに、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないことをいいます。

具体的には、上司が管理職である部下を退職させるという目的で、業務上必要がないのに、誰でも遂行可能な単純な受付業務を行わせるということが典型例です。

他方、経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせるというのは、業務の適正な範囲を超えていないといえますので、パワハラに該当しないと考えられます。

 

(6) 個の侵害

個の侵害とは、私的なことに過度に立ち入ったり、プライベートに過度に干渉したりすることをいいます。

具体的には、従業員が不在の際に机の上やカバンの中を勝手に物色する、スマホを勝手に覗き見る、家族や恋人のことをしつこく聞く、性的指向や性自認、病歴、不妊治療等の個人情報を他の従業員に勝手に暴露することなどが典型例です。

他方、配置転換など業務上の必要性に基づき、社員の家族の状況等についてヒヤリングを行うことは、業務の適正な範囲を超えませんし、就業環境を害していないと考えられますので、パワハラに該当しないと考えられます。

 

4. パワハラに関する裁判例について

以下では、パワハラに関する裁判例について、以上の内容と照らし合わせて解説していきます。

 

(1) いじめに起因するうつに対する社員の労災認定 大阪地方裁判所 平成22年6月23日

事案の概要

訴外会社に勤務していた原告Xは、通院・投薬を受ける必要のある精神障害に罹患した。原告Xは、その発症が同会社の同僚Yらの職務に伴ういじめとそれに対する適切な措置が訴外会社においてとられなかったという業務に起因するものであるとして、労働者災害補償保険法に基づいて京都市の労働基準監督署長に対し、療養補償給付を請求したが、同請求について不支給とする旨の処分をされたため、不支給処分の取消しを求めた事案。

 

※訴外会社:係争中の裁判において、当事者(原告や被告)ではない第三者の会社を指す。本事案では被告は国(行政裁判)であるため。

 

判旨の概要

Xに対する同僚の女性社員Yらのいじめやいやがらせが、個人が個別に行ったものではなく、集団でなされたものであって、しかもかなりの長期間継続してなされたものであり、その態様もはなはだ陰湿であり、常軌を逸した悪質なひどいいじめ、いやがらせというべきものであってそれによってXが受けた心理的負荷の程度は強度であるといわざるを得ないこと、また訴外会社の上司らはこのいじめについて気付くことなく、Xから相談を受けた際に軽く相談に乗るだけで以降何らの防止策を講じなかったことによりXが失望感を深めたことがうかがわれること、かつ全証拠によっても原告が殊更に脆弱であるとは認められないこと等を踏まえると、原告が発症した「不安障害、抑うつ状態」は同僚の女性社員Yらによるいじめやいやがらせとともに訴外会社がそれに対して何らの防止措置を取らなかったことから発症したものとして相当因果関係が認められる、とされ、本件疾病と業務との相当因果関係を認めなかった労働基準監督署長の処分が取り消された。

 

コメント

この裁判例は、主に「Ⅰ. 身体的な攻撃」と、「Ⅱ. 精神的な攻撃」を中心としたパワハラが行われた事案について判断したものです。特筆すべきは、上司からではなく同僚からのパワハラについて判断した点で重要であるといえます。

 

(2) パワハラを認定しなかった事例 東京地方裁判所 平成22年9月14日

事案の概要

原告であるXは、勤務先である被告Yの正社員として一般事務等に従事していたが、身体、精神の障害により業務に耐えられないことなどを理由として解雇された。原告はYの社長Aや上司Bによる集団的いじめや嫌がらせを受けて多大な精神的苦痛を被ったなどとして、不法行為に基づく損害賠償の支払い、雇用契約上の地位確認等を求めた。

 

判旨の概要

Xは、書類をファイルする場所を間違えることなどが多く、電話対応にも助言を必要とすることが多かったため、AはXに対し、日報を作成させ、業務の反省点、改善点を報告させた。この点について、Xは、日報にどんな些細なことでも反省点を記載しなければ叱責されるため、不合理な自己批判を強制されたと主張しているが、Xが日報に反省点を記載しなかったことを理由にAから叱責された形跡がうかがわれない。また、Aは、仕事に慣れるペースが遅いXに対し、教育指導的観点から少しでも業務遂行能力を身に着けさせるために、日報の作成を命じたと考えられ、不合理な自己批判を強制したものではないことは明らかである。

Bは、顧客からXのテレアポの感じが悪いという苦情を受けたことから、Xとテレアポの仕方についてミーティングを行ったところ、Xは、Bからかなり厳しく注意されたと感じたと主張するが、ミーティングの内容は、声を大きくすること、電話の件数をこなすのではなくアポイントの取得を目指すべきであることなど、苦情に対する改善策として至極もっともなものであり、Bは、Xの勤務態度について、かなり厳しく注意したことが窺われるが、そこにXに対するいじめや嫌がらせの目的は認められない。

したがって、Yの社長や社員による集団的いじめや嫌がらせを受けて多大な精神的苦痛を被ったというXの主張は失当というべきである。

 

コメント

この判例は、Xが「Ⅱ. 精神的攻撃」によるパワハラを受けたとして主張した判例ですが、裁判所は、「②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」ではない、「③就労環境を害された」ともいえないと判断して、Xのパワハラの主張を認めなかった事案です。

このように、裁判所はパワハラに該当すると思われるような言動や行動があっても、「②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」ではない、「③就労環境が害される」とまではいえないと判断した場合には、パワハラを否定することもあります。

関連する判例として、福岡高等裁判所 平成20年8月25日の判例でも、「百年の孤独要員」、「お前はとろくて仕事ができない。自分の顔に泥を塗るな。」という文言を班長が隊員に対して申し向けましたが、普段の関係性からみて、パワハラとは認定しなかったという判例もあります。

 

(3) 「Ⅰ. 身体的暴行」「Ⅱ. 精神的攻撃」を認定した事例 名古屋高等裁判所 平成20年1月29日

事案の概要

Y社の従業員であったXが、勤務中、同社の従業員であったY1から胸倉をつかんで頭・背中・腰を板壁に叩きつけたり頭突きをしたりといった暴行を受けるとともに、その後の労働者災害補償保険法の申請手続き等においてY社の従業員Y2から労災隠しをするために不当な対応を受け、これによりPTSDに罹患したと主張し、Y社らに対し、不法行為による損害賠償金と遅延損害金の支払いを求めた事例。

 

判旨の概要

Y1は、Xに対し、暴行を加えたのであるから、その違法性は明らかであり、これによりXが被った損害を賠償すべき責任を負う。

Y2が、XがPTSDないし神経症である旨の診断を受け、担当医から、Y社の関係者との面談、仕事の話をすることを控える旨告知されていたことを認識していたことからすれば、Y2の発言は違法であって、不法行為を構成する。

 

コメント

この判例は、Xが、Y1からの「Ⅰ. 身体的攻撃」によるパワハラを受け、Y2の申請手続きでの不当な扱いにより「Ⅱ. 精神的攻撃」によるパワハラを受けたと認定した判例です。

この判例においては、Y2による「Ⅱ. 精神的攻撃」については詳細に主張を行って緻密に判断を行っていますが、Y1の「Ⅰ. 身体的暴行」に関しては、「その違法性は明らかであり」と認定されています。身体的暴行の違法性が比較的容易に認められている点は注目すべきでしょう。

 

(4)「Ⅱ. 精神的な攻撃」としてのパワハラを認めた事例  大分地方裁判所 平成25年2月20日

事案の概要

化粧品の販売会社から出向した先のY社において、美容部員として勤務していたXが、Y社の実施する販売コンクールにおいて販売目標数を達成しなかったため、その後に開催された研修会において「罰ゲーム」として、Y社の従業員Y1らに、意に反してコスチュームを着用して参加することを強制され、別の研修会においてもコスチュームを着用したスライドが投影されたことから、休業を余儀なくされる精神的苦痛を被ったとして、不法行為を理由として損害賠償を請求した。

 

判旨の概要

化粧品販売会社の美容部員を対象とする研修会に参加したXに対して、Y1が特定のコスチュームを着用させた行為につき、Xがその場でこれを拒否することは非常に困難であったというべきで、さらに別の研修会において了解なく本件コスチュームを着用したスライドを投影したという事情を伴うものであるから、目的が正当なものであったとしても、社会通念上正当な職務行為であるといえず、Xに心理的負担を過度に負わせる行為であり、違法性を有し、Y1らには当該行為によってXに損害が発生することについて過失があったものであり、不法行為に該当すると認められる。スライドが投影された後、通院が開始され、「身体表現性障害」の診断を受けていること、通院開始の際の愁訴には本件コスチュームの着用とその他会社の対応への不満が含まれ、発症時期は本件研修会以前と診断されていること等も考慮して、20万円の慰謝料が認められた。

 

コメント

販売目標数を達成しなかった社員に対して、罰ゲームと称してコスチュームを着させた行為について、「Ⅱ. 精神的な攻撃」としてのパワハラを認めた事例です。パワハラの精神的な攻撃といえば、大声で怒鳴りつけたり、人格を否定したりすることを想像されるかと思われますが、コスチュームを着用させ、「罰ゲーム」という名目でなされる行為であっても、屈辱感を与えるものである場合には精神的な攻撃となると認定されたことは注目すべきでしょう。

 

(5) 「Ⅲ. 人間関係からの切り離し」について判断した事例 東京高等裁判所 平成5年11月12日

事案の概要

学校法人Yの設置する高等学校の教員であるXが、これまで担当してきた授業、クラス担任などの一切の仕事から外されたうえ、何らの仕事も与えられないまま4年半にわたって自宅研修をさせられ、年度末一時金の支給停止等、差別的取り扱いをされているのは不法行為である等として慰謝料の支払いを求めた。

 

判旨の概要

YがXに対し、仕事外し、職員室内隔離、自宅研修という過酷な処遇を行い、さらに賃金等の差別をしてきた原因については、Xが二度にわたって産休をとったこと及びその後の態度が気にくわないという多分に感情的な校長の嫌悪感に端を発し、その後些細なことについての行き違いから、控訴人側が感情に走った言動に出て、執拗とも思える程始末書の提出を被控訴人に要求し続け、これに被控訴人が応じなかったため依怙地(いこじ)になったことにあると認められる。その経過において、被控訴人のとった態度にも反省すべき点がなかったわけではないが、この点を考慮しても、控訴人の行った言動あるいは業務命令等を正当づける理由とはならず、その行為は、業務命令権の濫用として違法、無効であることは明らかであって、控訴人の責任は極めて重大である。

そして、被控訴人に対する控訴人の措置は、見せしめ的ともいえるほどに次々にエスカレートし、13年間の長きにわたって被控訴人の職務を一切奪ったうえ、その間に職場復帰のための機会等も与えずに放置し、しかも、今後も職場復帰も解雇も全く考えておらず、このままの状態で退職を待つという態度に終始しているのであって、見方によっては懲戒解雇以上に過酷な処遇といわざるを得ない。

そして、このような控訴人の行為により、被控訴人は、長年、何らの仕事も与えられずに、職員室内で一日中机の前に座っていることを強制されたり、他の教職員からも隔絶されてきたばかりでなく、自宅研修の名目で職場からも完全に排除され、かつ、賃金も昭和54年度のまま据え置かれ、一時金は一切支給されず、物心両面にわたって重大な不利益を受けてきたものであり、被控訴人の被った精神的苦痛は誠に甚大であると認められる。

 

コメント

上記のパワハラの類型のうち、「Ⅲ. 人間関係からの切り離し」について判断した事例です。人間関係からの切り離しの行為については、その切り離しの態様だけでなく、その行為に至った経緯についても判断を詳細に行ってパワハラかどうかを判断していることに注目すべきでしょう。

 

(6) 「Ⅳ. 過大な要求」として、パワハラと認められた事例 横浜地方裁判所 平成11年9月21日

事案の概要・結果

Y1の営業所に所属する運転士であるXが、駐車車両に路線バスを接触させ、営業所所長Y2から下車勤務として約1か月の同営業所構内除草を命じられ、乗車勤務復帰後も1か月以上の添乗指導を受けることを命じられたため精神的損害を受けたと主張して、Y1社とY2に対し、慰謝料の支払いを求めた。

 

判旨の概要

路線バスを駐車車両に接触させた事故につき、Xには過失がなかったにもかかわらず、十分な調査を尽くさず過失があったことを前提に、Xが所属するY1営業所の所長Y2が、期限を定めずに、連続した出勤日に下車勤務形態のなかで最も過酷な作業である炎天下における構内除草作業を選択し、病気になっても仕方がないとの認識の下にXを従事させることは、Xに対する人権侵害の程度が非常に大きく、下車勤務の目的を大きく逸脱しているのであって、むしろ恣意的な懲罰の色彩が強く、安全運転をさせるための手段としては不適当であり、所長としての裁量の範囲を逸脱した違法な業務命令であるというべきであり、故意による不法行為であることを考慮すると、Xに生じた精神的損害を慰謝する金額としては60万円が相当とされた。

Xに1か月以上行われた添乗指導は、Xの運転技術上の問題の矯正を目的としてなされた業務命令であること等から、違法と評価することはできない。

 

コメント

この判例は、下車勤務として、構内除草作業を行わせた行為が、「Ⅳ. 過大な要求」として、パワハラと認められた事案です。

指示した業務の内容が業務として認められるものであっても、その指示の態様が苛烈なものであれば、過大な要求としてパワハラとして認定され得るという点には注目すべきでしょう。なお、「懲罰の色彩」と表現するように、その指示命令の目的と、その指示命令に至った経緯も重視して判断しています。

他方で、添乗指導を命じたことについては、1か月と長期間ではありますが、接触事故を起こしたという点から鑑みれば、「②業務の適正な範囲を超え」ない言動であるといえますから、パワハラに該当しないと裁判所が判断したものと評価できます。

 

(7) 「Ⅴ. 過小な要求」と判断した事例 東京地方裁判所 平成7年12月4日

事案の概要

勤務先Yの管理職だったXが、YがXに対して行った降格とその後の配転という一連の嫌がらせ行為は、Xら中高年管理職を退職に追い込む意図をもってなされた不法行為であるとして、Yに対して慰謝料の支払いを求めた事案。

 

判旨の概要

Xのオペレーションシステムへの降格について、Y在日支店は、ずっと赤字基調にあり、厳しい経営の下、オペレーション部門の合理化、貸付部門や外為部門の強化などの改革が急務となっており、管理職らに対し、新経営方針への理解・協力を求めたが、Xを含む多数の管理職らが積極的に協力しなかったため、新経営方針に協力するものを昇格させる一方、Xを含む多数の管理職を降格させたものである。

この降格によりXが受けた精神的衝撃、失望感は決して浅くなかったと推認されるが、Yにおいて、新経営方針の推進徹底が急務とされていたことから、これに積極的に協力しない管理職を降格する業務上・組織上の行動の必要性があったと認められること、Xと同様の降格発令をされた多数の管理職らは、いずれも降格に異議を唱えておらず、Yのとった措置をやむを得ないものと受け止めていたと推認されること等の事実からすれば、Xの降格をもって、Yに委ねられた裁量権を逸脱した濫用的なものと認めることはできない。

その後の総務課の配転については、総務課の受付は、それまで20代前半の契約社員が担当していた業務であり、外国書簡の受発送、書類の各課への配送等の単純労務と来客の取次を担当し、業務受付とはいえ、Xの旧知の外部者の来訪も少なくない職場であって、勤続33年に及び、課長まで経験したXにふさわしい職務であるとは到底いえず、Xが著しく名誉・自尊心を傷つけられたであろうことは想像に難くない。

Xに対する総務課配転は、Xの人格権を侵害し、職場内・外で孤立させ、勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる意図をもってなされたものであり、Yに許された裁量権の範囲を逸脱した違法なものであって不法行為を構成する。

 

コメント

Xに対してなされた配転が、「Ⅴ. 過小な要求」であるとして、パワハラと判断された事例です。判旨の概要説明が詳細であることからも分かるとおり、業務上の必要性と、その従業員の能力をきめ細やかに検討し、なされた業務命令が過小な要求であると認定されることとなります。

降格と配転を分けている点からみても、業務上の必要性があったかどうかという点を特に注視して判断している点には着目すべきでしょう。

 

(8) 「Ⅵ. 個の侵害」があるとしてパワハラを認めた判例 最高裁判所 第三小法廷 平成7年9月5日判決

事案の概要

勤務先Yの従業員であったX1、X2、X3およびX4(以下「Xら」とします。)が、Xらが特定の政党の党員又はその同調者であることのみを理由とし、その職制等を通じて、職場の内外でXらを継続的に監視したり、Xらと接触等をしないよう他の従業員に働きかけたり、X1およびX2を尾行したり、X2のロッカーを無断で開けて私物の写真撮影をするといったYの行為は不法行為に当たると主張して、Yに対して、慰謝料等を請求した事案。

 

判旨の概要

Yは、Xらにおいて現実には企業秩序を破壊し混乱させるなどのおそれがあるとは認められないにもかかわらず、Xらが特定の政党の党員又はその同調者であることのみを理由とし、その職制等を通じて、職場の内外でXらを継続に監視する体制を採った上、Xらが極左分子であるとか、Yの経営方針に非協力的なものであるなどとその思想を非難して、Xらとの接触、交際をしないよう他の従業員に働きかけ、その過程の中で、X1およびX2については、退社後同人らを尾行したりし、特にX2については、ロッカーを無断で開けて私物を写真に撮影したりしたというのである。

そうであればこれらの行為は、Xらの職場における自由な人間関係を形成する自由を不当に侵害するとともに、その名誉を侵害するとともに、その名誉を毀損するものであり、また、X2らに対する行為はそのプライバシーを侵害するものであって、同人らの人格的利益を侵害するものというべく、これら一連の行為がYの会社としての方針に基づいて行われたというのであるから、それらは、それぞれYの各Xらに対する不法行為を構成するものといわざるを得ない。

 

コメント

会社の一連の監視行為、とりわけX1,X2に対する尾行行為、X2についてのロッカーを無断で開けて撮影した行為について、「Ⅵ. 個の侵害」があるとして、パワハラを認めた判例です。個の侵害に該当するかは非常に難しい問題ですが、とりわけ、本事案のような思想・信条に関する調査というのは許されない場合が多いといえます。

 

5. パワハラ発生後の使用者の対応について

最後に、パワハラ発生後の使用者のとるべき対応についてお伝えいたします。使用者側が取るべき対応として、以下の4つが考えられます。

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①事実関係の調査

②被害者のフォロー

③加害者に対する処分

④再発防止措置

 

 

(1) 事実関係の調査

事実関係の調査として、加害者・被害者に対する事実関係の聴取をまず行い、そののち、目撃していた社員や関係者からの事実関係の調査を行いましょう。パワハラは、加害者と被害者の認識が大きく関わってくるため、従業員の証言だけでは、食い違いが生じてしまい、調査が十分とはいえません。そのため、メール、書面、録音などの物的証拠を集め、その裏付けをもって、どういった事実があったのか?という点をきちんと調査すべきです。

その後、調査内容をまとめ、調査報告書を作成しましょう。調査報告書の作成については、会社から独立した第三者による関与が必要不可欠ですし、事実の認定なども法的知識が肝要ですので、この点については、弁護士にご相談ください。

 

(2) 被害者のフォロー

被害者に対するフォローを行うため、被害者と加害者の所属を別の部署に配置転換する、被害者のメンタルヘルスに関する相談などを受けるといったことが考えられます。

 

(3) 加害者に対する処分

加害者に対しては、そのパワハラの程度によりますが、懲戒処分を行うという選択肢があります。懲戒処分は、パワハラの内容に応じて必要かつ相当な処分を行わないといけませんから、極めて慎重に行う必要があります。

 

(4) 再発防止措置

調査、被害者へのフォロー、加害者への処分という手続きを踏んだあとは、再発防止措置を行うこととなります。まず、できる限り広い範囲の従業員(なるべく全社員が好ましい)に、パワハラがあったという事実と、加害者に対して行った処分、そして、パワハラを行った場合、厳正な処分を行うということを周知させます。

また、管理職に対しては、パワハラに関する事実を伝えたうえで、自分の受け持つ部署でパワハラが発生しないよう監視するように注意を促すことも大事だと考えられます。また、管理職には、パワハラに関する研修や講習を行うことができればさらに望ましいです。

そして、パワハラに関する相談窓口の設置をおこない、働きやすい環境づくりを行うことも大事でしょう。

 

6. さいごに

虎ノ門法律経済事務所は、パワハラに関して使用者側に立って解決をしてきたスペシャリストも多数在籍しています。本記事で述べてきた判例のような事案でなくても、この管理職の行為はパワハラなのか?どういった環境づくりをしていけばよいのか?パワハラ事案が発生してしまったがどのように対処すればよいかなど、様々なことについてお答えできますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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