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2026.07.07

労働契約とは?契約書作成からトラブルが発生しやすい注意点について弁護士が解説!

労働契約とは?契約書作成からトラブルが発生しやすい注意点について弁護士が解説!
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村木 亨輔

弁護士
虎ノ門法律経済事務所 神戸支店
神戸支店長
法律が日々の生活に関わることは、意外と多くの場面であるものです。その時、どのように対応するかによって、結論が大きく変わってくることも少なくありません。
私は、悩みを抱えてご来所された方に対し、より良い道しるべを提供させていただくべく、仕事に取り組む所存です。

1. 労働契約とは

⑴ 人を雇い入れるときに必要なこと

事業者の皆様が、新たに社員を迎え入れる場面を想像してみてください。

勤務時間や待遇、配属部署の決定など、検討すべき事項は多岐にわたり、受け入れ準備に追われていることと思います。

いざ採用が決まった候補者に対しては、具体的な契約内容を説明し、お互いの合意形成を図ならければなりません。その際、事業者の皆様の中には、「法律上、労働条件通知書を渡すだけで良いのか?それとも、労働契約書や雇用契約書まで作成して取り交わして方が良いのか?」と、対応に悩まれるかもしれません。

 

⑵ 労働契約と雇用契約

まず、事業者が労働者と取り交わすこととなる労働契約とは、そもそも何なのかについて考えてみます。

労働契約法6条によると、「労働契約法は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」と規定されており、労働者と使用者とが、お互いに果たす役割について、合意し取り決める必要があると分かります。しかし、この規定は、労働契約の定義そのものを定めているわけではありません。

一般に、労働者とは、使用者の指揮命令の下で包括的に労務を提供する者のことで、他方、使用者はその対価としての賃金を支払う者のことで、両者の関係を基礎づける契約こそが労働契約であると定義づけられます。そして、労働契約法では、使用者と労働者に対し、労働契約の内容について、出来る限り書面によって、確認することまで求めています(労働契約法4条2項)。但し、労働契約締結時においては労働条件の内容を明示する必要がありますが、その点は次項で述べます。また、民法623条では、「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」と、雇用契約について定めています。ここでは、「約束」があれば契約が成立するとされております。

そして、労働契約法で定める「労働契約」は、民法で定める「雇用契約」と基本的に同一の契約類型とされています。元々、民法において「雇用契約」について規定されていました。そうしたところ、就業形態が多様化していき、個別労働関係訴訟が増加して判例法理が蓄積していき、個別の労働関係を安定化し、また労働契約そのものの基本的な理念や共通する原則、判例法理に沿った労働契約に関する民事的なルールを体系化することを目的として、労働契約法ができあがりました。

以上の通り、労働契約とは、労働者保護を目的と、民法の雇用契約を特別に規定したものと言え、使用者の指揮命令下の「労働」とそれに対する賃金支払いの合意によって成立し、また書面によって労働条件を明確化することが強く求められる契約と言えます。

 

男性アイコン

 

⑶ 労働者に明示すべき条件とその明示方法

ところで、使用者が労働者と労働契約を結ぶ際、賃金、労働時間その他の労働条件について、労働者に明示する必要があります(労働基準法15条1項)。

使用者が労働者に明示しなければならない条件について、労働基準法施行規則5条1項で定められています。

具体的に、「労働契約の期間」、「有期労働契約を更新する場合の基準」、「就業の場所及び従事すべき業務」「始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項」「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」「退職や解雇に関する事項」が、契約時に示さなければならないとされる内容となります。

また、同施行規則4項本文では、実際に明示する方法として、原則、書面を交付すべきとしていますが、他方、労働者が希望する場合には、ファクシミリや電子メール等の電気通信も可能としており、労働者の同意を前提とするものの、幅広い対応を認めていると言えます。また、同施行規則では、退職手当、賞与、安全衛生など、使用者が何らかの定めをした場合には、更に明示することが必要とされる事項についても、詳細に定めています。

労働契約の際に必ず明示すべき事項

 

⑷ 労働条件通知書

このように、使用者は、労働契約締結時において、労働契約書を労働者との間で取り交わすことまでは必要ではありませんし、義務でもありませんが、他方、労働条件について、労働者に書面等を交付する義務があります。このようにして作成される書面が、「労働条件通知書」です。

 

労働条件通知書は、使用者が労働者を雇用する際に交付するものです。そして、後述の通り、雇用形態は様々ですが、その形態によらずに交付する必要があります。労働基準法第120条1号では、労働条件通知書を示す義務に違反した場合、事業者に30万円以下の罰金刑に処す場合があると規定しており、労働条件通知書を示すことが厳格な義務であることが分かります。

 

なお、相手との関係が業務委託契約や請負契約に基づく場合、労働契約を取り交わすわけではありませんので、労働契約法や労働基準法に基づいて労働条件通知書を交付する義務はありません。但し、個人で働くフリーランスに対し、業務委託を行う発注事業者には、令和6年11月1日に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆる、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」)3条によって、取引条件の明示義務が新たに課されることとなりました。

このように、労働契約で規定されていない就業形態においても、契約内容を明確化することが法的に義務付けられる場合がありますので、事業者としても、契約類型に応じて適切な対応を取ることが必要と言えます。

 

2. それぞれの雇用形態との違いについて

昨今、就業形態が非常に多様化しております。それでは、実際、どのような雇用形態があるのでしょうか?いくつか具体的に確認してみましょう。

 

(1) 正社員

雇用形態として最もスタンダードと言えるのが正社員です。

正社員について、法律で明確に定義付けされているわけではありません。一般に、「無期雇用契約で雇用されていること」と「フルタイムで働くこと」とを兼ね備えた社員を指します。

正社員以外の雇用形態で従事する従業員のことを、「非正規雇用」と表現することがあります。

 

(2) 非正規雇用

いわゆる非正規雇用と呼ばれる働き方には、主に「労働時間」に着目した区分(パートタイマー・アルバイト)と、「契約期間」に着目した区分(有期雇用労働者)の2つの区分が代表として挙げられます。但し、実務上は、「期間の定めのあるパートタイマー」のように、両方の性質を併せ持つケースも多く、また一般的でもありますので、厳格に区分けできるわけではありません。以下、これらの区分を中心に説明していきます。

 

短時間労働者(パートタイマー・アルバイト)

労働時間が正社員よりも短い労働者のことをパートタイマーやアルバイト(以下、「パートタイマー等」と言います。)と呼びます。

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下、「パートタイム・有期雇用労働者法」と言います。)第2条1項によりますと、一週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の一週間の所定労働時間に比べ短い労働者のことを「短時間労働者」と定義づけています。

 

事業者は、パートタイマー等と労働契約を結ぶ場合にも、労働条件通知書を渡す必要があります。労働条件通知書内で記載すべき内容については上述しましたが、パートタイマー等に交付する労働条件通知書では、更に「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」について、明示する必要があるとされています(パートタイム・有期雇用労働者法6条1項、同施行規則題2条1項)。立場上、正社員以上に不利に扱われるおそれがあるパートタイマー等を守るための規定と言えます。

 

契約社員(有期雇用契約社員)

同じく、パートタイム・有期雇用労働法第2条2項では、期間の定めのある労働契約を締結した労働者のことを「有期雇用労働者」と定義づけています。

契約社員の契約期間について、労働基準法14条1項において、「専門的知識等を有する労働者」や「満60歳以上の労働者」といった例外的な場合でなければ、最長3年間と定められています。言い換えますと、雇用契約が3年以内で終了することになりますので、事業者としては、労働者と改めて有期雇用契約を更新するか、若しくは別の人材を新たに確保する必要があることになります。

但し、通算雇用期間が5年を超える場合、有期雇用から無期雇用に切り替える必要があります(無期転換ルール)。具体的に、「有期雇用契約が5年を超えて更新された場合」に有期雇用労働者から無期雇用契約へ転換するように求められた場合、事業者は労働者の申入れを拒絶することはできません。

無期転換に切り替わるのは、具体的に、

契約期間が1年でそれを何度も更新するような場合であれば、5回目に更新した時点であり、

契約期間が3年で2回目の更新をする場合、更新時点で労働者には「無期転換申込権」が発生し、5年が経過した時点となります。

そのため、事業者が無期雇用契約へ転換することを希望しない場合には、5年を経過しない時点で、有期雇用労働者との雇用関係を終了させておくことが必要となります。

 

3. 労働契約書を作成していない場合のリスク

⑴ 労働契約書の作成

繰り返しになりますが、事業者は、労働契約書を作成して労働者と取り交わさなかったとしても、法律に違反するわけではありません。事業者と労働者との関係については、労働条件通知書で労働条件を示す必要がありますし、就業規則を作成していれば、労使関係についても細かく定められていることが多いでしょうから、敢えて労働契約書を取り交わさない場合も多いのではないでしょうか。

確かに労働契約書を作成しようと思っても、そもそも時間や手間もかかりますし、どのような文言を盛り込むかについて慎重に検討する必要もあります。また、苦労して契約書を作成しても、労働者に理解してもらう必要もあります。そうすると、労働契約書を取り交わす意欲が沸きにくいかもしれません。

 

⑵ 労働契約書を取り交わさないリスク

それでは、労働契約書は作成して取り交わさなくてもリスクはないのでしょうか?

この問いに対する回答は、リスクは当然あるです。そして、事業者が、リスクに気づくのは、労働者と労使関係でトラブルに発展して引くに引けなくなった時点であることがほとんどです。

 

もちろん、事業者は、労働条件通知書を示していますので、労働契約の内容や労働条件は一見、明らかであるようにも思えます。ところが、労働条件通知書は、事業者が労働者に一方的に通知する書面ですので、労働者と認識のずれがあるかもしれません。また、モデル書式を参考とする場合、通知内容はA4用紙2枚にまとめられますので、十分な内容が書面上で明らかではないかもしれません。

 

具体的に、過去の裁判例では、事業者と労働者の認識の齟齬によって、期間を定めた労働契約が、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態になっていたと判断した日欧産業協力センター事件(東京高裁平成17年1月26日判決 平15(ネ)第5943号、平16(ネ)第597号)や、中途採用者につき、一方で求人票には雇用期間の欄が空欄で記載がなく、定年が60歳であること等の記載があったものの、他方、労働契約書において契約期間が1年間と明記されていた事例において、求人票の記載内容をや労働者による応募状況を勘案して、期間満了により労働契約が当然に終了するとの明確な合意が当事者間において成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、1年間の試用期間が定められた期間の定めのない労働契約が成立したと判断した愛徳姉妹会事件(大阪地裁平成15年4月25日判決、平成14(ワ)第7453号)などがあります。

これらの事件の結論を踏まえますと、契約締結時、雇用契約書をきちんと取り交わし、明確に内容が規定されていれば、紛争の事前防止ができたかもしれませんし、仮に紛争に発展したとしても事業者側の主張が認められた可能性があったとも言えます。

 

⑶ リスク管理としての契約書作成

事業者は、売買契約や贈与契約、賃貸借契約など、数多くの契約を取引相手と取り交わすこともあるでしょう。そして、これらの契約は当事者の合意の意思表示のみで成立する諾成契約ですので、本来、契約書面を取り交すことまでは必要ではありません。しかし、事業者としては、諾成契約なので契約書は不要であると考えるのではなく、契約の種類や内容によっては、後に、取引相手と契約内容の解釈で齟齬が生じることを避けるため、敢えて書面化することも多いのではないでしょうか。

そうすると、事業者としては、後に紛争に発展する場合に備えて労働契約書を作成して労働者と取り交わすことこそが、後のリスク管理に資する対応と言えるのではないでしょうか。

 

4. 労働契約書を作成する際のポイント

労働契約書を作成する際のポイントは、労働契約以外の契約関係で取り交わす契約書面と同じような視点をもって、まずは形式面と内容面について十分意識すべきでしょう。

まず、形式面ですが、後に労働者と文言の解釈に食い違いが生じることを避ける必要がありますので、出来るだけ平易かつ具体例を散りばめつつ詳細な表現を心掛けるべきでしょう。労働契約書の形式面を整えたひな形を予め準備できる場合には、記載漏れを防ぎやすくなるとともに、一から作成する手間も省けると言えます。

次に、内容面ですが、雇用期間、就業場所、始業・終業時刻や休憩時間、時間外休日労働、休日及び休業、賃金に関する規定、退職や契約解除等の契約終了事由など、労働条件通知書に明記する必要がある項目について意識しつつ項目立てて作成する必要がありますし、前提として、労働基準法や労働契約法などの法律や各種規則、さらには事業者が定めた就業規則に抵触しないことが求められると言えます。

そのようにして労働契約書の細部を作り上げていくわけですが、労働契約書自体、労働者が置かれる職場環境と齟齬が生じないように注意すべきです。具体的に、契約書で取り決められた就業場所や就業時間と、実際に労働者が置かれる労働環境との間に齟齬が生じてしまいますと、労働者としては、そのような労働環境下で就業することを事業者と合意しているわけではないと争ってくるおそれがあります。この点、後述する「6. 労働契約における重要裁判例について」でも簡単にご紹介しますので参照ください。

いずれにせよ、事業者としては、労働契約書を作成する場合、形式面だけでなく、実際に労働者が置かれる労働環境に合致するように心がけるべきでしょう。

 

5. 労働契約でトラブルが発生しやすいポイント

そもそも労働契約書がないために労働者とどのような合意をしたのかがはっきりしない場合や、文言が不明瞭だったり不備があったりして解釈面で見解が分かれる場合、契約内容と実際の労働環境とに齟齬が生じている場合や齟齬が補正されないままとなっている場合など、事業者としては思いも寄らないところでトラブルが発生することがあります。

そうすると、事業者としては、法的側面で不備の無い内容で、漏れやだぶりが無く、分かりやすい労働契約書を作成すべきでしょうし、労働者にしっかりと内容を理解してもらってから、労働契約を取り交わすことが大切です。そして、労働者に提供される労働環境が、契約内容と合致していることも大切です。

 

6. 労働契約における重要裁判例について

労働契約がテーマの重要判例は数多くあります。以下では、事業者として知っておくべき裁判例をいくつかご紹介したいと思います。

 

(1) 使用者が行使する業務命令の根拠について判断した裁判例

使用者は、業務命令として、労働者に指示や命令をします。それでは、業務命令を出す根拠はどこにあるのでしょうか。この点、裁判所は、「一般に業務命令とは、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示又は命令であり、使用者がその雇用する労働者に対して業務命令をもつて指示、命令することができる根拠は、労働者がその労働力の処分を使用者に委ねることを約する労働契約にあると解すべきである。

すなわち、労働者は、使用者に対して一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して労働契約を締結するものであるから、その一定の範囲での労働力の処分に関する使用者の指示、命令としての業務命令に従う義務があるというべきであり、したがつて、使用者が業務命令をもつて指示、命令することのできる事項であるかどうかは、労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものであつて、この点は結局のところ当該具体的な労働契約の解釈の問題に帰するものということができる。」として、使用者と労働者とが取り交わした労働契約に基づくものであると判断しました。

(電電公社帯広局事件 最判昭和61年3月13日労判470号6頁)

 

(2) 労働者に対する損害賠償責任の範囲について判断した裁判例

使用者は、労働者によって現実的に損害を与えられた場合、当該労働者に対し、債務不履行若しくは不法行為による損害賠償を請求することを検討する必要があります。但し、使用者は、損害賠償請求権を行使するにせよ、無制限にできるわけではありません。実際、裁判所は、「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度のその他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に制限すると判断しました。

(茨城石炭商事事件 最判昭和51年7月8日判時827号52頁)

 

なお、使用者が労働契約上で定められた義務を履行しない場合を想定して損害賠償を予定することは、そもそも労働基準法16条に違反しますのでこのような文言を労働契約書内に盛り込まないように注意しましょう。

 

7. 弁護士による労働契約書のチェック、トラブル対応

以上見てきましたが、使用者は、実際に労働者が置かれる労働環境と比較しながら、契約書内にどのような文言をどのような表現で盛り込むかについて精確かつ不足がない形で作成していく必要があります。また、一見、明確であって解釈に問題が無い文言に思えても、後に労働者と意見が対立するかもしれません。

そうすると、事業者とは異なる立場からリーガル面でチェックしてもらうことが大切であることが分かります。特に、弁護士は、契約書に対する理解が深いですので、リーガルチェックをすることに長けています。言い換えますと、労働者と労働契約を取り交わす前に弁護士に労働契約書をチェックしてもらうことは、後に起こる紛争を回避することにつながるでしょう。

また、万全の労働契約書を作って労働者と労働契約を交わしたとしても、後に思いもしなかったトラブルに巻き込まれることがあるかもしれません。この場合も早い段階で、弁護士に相談することが大切です。労働者が置かれた労働環境を踏まえ、労働者の申し入れる内容が、労働契約の面からどのような意味を持つのか、後に労働審判や裁判に発展した場合、どのような結論となりうるか、思考整理をする一助になるはずです。

 

 

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