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2026.06.16

人材紹介業でよくある労務トラブルと知っておくべきポイントについて弁護士が解説!

人材紹介業でよくある労務トラブルと知っておくべきポイントについて弁護士が解説!
アイコンこの記事を書いた弁護士

中尾 武史

弁護士
虎ノ門法律経済事務所 大阪支店
大阪支店長
不動産、中小企業法務、そして相続に関する案件を多く取り扱っております。
事件を無駄に長引かすことをせず、依頼者に寄り添いつつ基本的に交渉での解決を目指しております。また、裁判案件であっても、スピーディーに解決することを心がけています。

1. 人材紹介業とは?

現代の企業は、人不足も相まって、優秀な人材の確保に注力し、また人材の確保が競争力の源となっています。また、人材を「人財」と呼ぶ企業も出てくるなど、さまざまな業界で人材獲得への注力が増しています。

その中で注目されているのが「人材紹介業」です。

 

人材紹介業とは、企業と求職者の間に立ち、適切なマッチングを行うサービスのことです。

一般的には「人材エージェント」や「転職エージェント」とも呼ばれ、求職者に対しては転職先の紹介やキャリアのアドバイスを提供し、企業に対しては人材の確保をサポートする役割を担います。これにより、求職者は自身に合った企業やポジションを見つけやすくなり、企業側は求めるスキルや経験を持つ人材を効果的に獲得できます。

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人材紹介契約説明図

人材紹介業を行うには、職業安定法、労働基準法などの、法令を遵守する必要があり、事業者は、厚生労働省から許可を受ける必要があります。

 

2.  人材紹介業を取り巻く概況について

人材紹介業の市場動向等については、労働市場の変化やテクノロジーの進展、さらに社会的な価値観の変化に大きく影響を受けています。

以下、現状の主要なポイントと今後の見通しについて解説します。

 

⑴ 人材不足と採用ニーズの増加

近年、少子高齢化の進行により、日本国内では人手不足が深刻化しています。特に、一部の業種(特に、ITや医療、製造業など)では深刻な人材不足が続いており、企業は優秀な人材を迅速かつ効率的に確保するために人材紹介業への依存度を高めています。

これにより、バブル期以降、人材紹介業の市場は拡大を続けており、採用難易度の高いポジションでも専門の人材紹介会社に頼るケースが増えています。

 

⑵ リモートワークや副業など働き方の多様化

コロナ禍以降、リモートワークが急速に普及し、雇用形態や働き方が多様化しています。この影響で、フリーランスや副業といった柔軟な働き方に対応できる人材紹介のニーズが増加しました。

これに伴い、正社員だけでなく、契約社員や派遣社員、フリーランス向けの求人を扱うエージェントも増加し、サービスの多様化が進んでいます。

 

⑶ 法規制や倫理面での意識の高まり

人材紹介業は、上記のとおり労働法や個人情報保護法などさまざまな法規制の影響を受けているため、法令遵守や倫理面での取り組みが重要視されています。

人材紹介業界全体としてもコンプライアンスを強化し、求職者や企業に対して透明性のあるサービスを提供する姿勢が求められています。悪質な紹介業者によるトラブル防止のための取り組みも、行政や業界団体によって進められています。厚生労働省のホームページにおいて、行政処分の内容が開示されています。

 

3. 人材紹介業の特徴について

⑴ 専任エージェントによるサポート

人材紹介業の最大の特徴は、専任のエージェントが求職者や企業に個別でサポートを提供する点です。

エージェントは、求職者のキャリアやスキル、職歴などを丁寧にヒアリングし、本人に最適な求人を提案します。また、企業にとっても、自社の求める人物像にマッチした人材をスクリーニングして紹介してくれるため、効果的な採用活動が可能です。

 

⑵ 非公開求人へのアクセス

人材紹介会社には、通常の求人サイトや一般公開されていない「非公開求人」の情報が多く集まります。

これらの求人は、企業が特定のスキルや経験を持つ人材のみをターゲットにしている場合や、早期に優秀な人材を確保したい場合などに非公開で募集されるものです。求職者にとっては、より多くの選択肢や優良なポジションへのアクセスが可能になります。

 

⑶ 面接や交渉のサポート

人材紹介業では、応募後の面接対策や給与交渉のサポートも特徴的です。面接では、企業ごとに異なる選考の傾向や求められるスキルについてのアドバイスを受けられるため、より高い確率で面接をクリアすることが期待できます。

また、エージェントが求職者に代わって給与や条件面での交渉を行ってくれるため、転職時に条件交渉が苦手な求職者も安心して希望を伝えられます。

 

⑷ 採用プロセスの効率化

企業側にとっても、人材紹介業を活用することで採用プロセスを効率化できます。

人材紹介会社は事前に候補者を絞り込んで紹介するため、企業はスクリーニングの負担が軽減され、短期間で必要な人材を確保することができます。新人一括採用を中心とする採用活動を採用の基準とする会社が、中途採用活動制度を内製化する場合と比べて、コストや時間の節約にもつながります。

 

⑸ 個別のキャリアアドバイス

人材紹介業は、ただ求人を紹介するだけでなく、求職者にキャリアについてのアドバイスを提供します。

キャリアパスの選定や転職市場の最新情報などについてエージェントと相談することで、求職者は長期的なキャリア形成を視野に入れた転職活動を進めやすくなります。また、スキルアップに必要なアドバイスや目標設定も提供されるため、求職者が自分の強みを明確にしやすくなります。

 

⑹ 入社後のフォローアップ

多くの人材紹介会社は、求職者が新しい職場に入社した後もフォローアップを行い、適応状況や働き方についてのサポートを提供しています。

入社後の早期離職を防ぐため、エージェントが定期的に面談を行うこともあり、これにより、求職者の満足度や定着率が向上するケースが多く見られます。

これは、多くの紹介会社において、紹介した従業員が採用後数か月以内に退職した場合、通常、紹介料として受領した一定の額を返金する必要があることも理由の一つです。

 

4. 人材紹介業で発生しやすい労務トラブル

人材紹介業で発生しやすい労務トラブルには、主に以下のようなものが挙げられます。

これらのトラブルを未然に防ぐためには、企業・求職者の双方と透明性のあるコミュニケーションを行い、法令遵守を徹底することが求められます。

 

⑴ 労働条件の相違によるトラブル

人材紹介業では、エージェントが求職者に労働条件を説明する役割を担いますが、企業側が求職者に提示する条件がエージェントの説明と異なる場合があります。

例えば、年収や勤務地、残業時間(休憩時間の確保)などの条件に食い違いが生じると、入社後に求職者の不満が高まり、早期離職や労働トラブルに発展することがあります。

 

⑵ 早期離職と費用返還トラブル

人材紹介業の契約では、求職者が早期に離職した場合、企業が支払った紹介手数料の一部または全額を返還する条項が含まれることが往々にあります。

 

例えば以下のような条項です。

・入社後1ヶ月以内の退職:徴収した手数料の80%を返還

・1ヶ月以上3ヶ月未満の退職:徴収した手数料の50%を返還

 

参考:紹介手数料請求事件(東京地裁 平成24年2月23日判決)

 

紹介されて入社した労働者に入社後すぐに逮捕歴があることが発覚し、企業側が退職勧奨を行った事案。

労働者は自主退職をしたが、当初の契約上「就労開始から1か月以内に自己都合退職なら返金」という返金規定があり、退職勧奨による自主退職でも返金規定の適用を認めた。

 

⑶ 直接契約(中抜き)による違約金請求

人材紹介業では、紹介した人材の中抜きが行われる危険性があります。

ここでいう中抜きとは、本来ならば払わなければならない手数料を払わずに、人材紹介会社に内密で企業が人材を採用する行為です。契約書によっては、採用前の誘因行為をもって違約金の発生原因となる場合もあります。

成果報酬型を採用しているエージェントでは、人材を採用しない限り紹介手数料は発生しません。

中抜きが横行すると、企業は適切な費用を支払わないままに求めていた人材を採用できてしまい、紹介会社の経営が成り立たなくなります。そのため、一般的な人材紹介契約書では中抜きを防ぐために、求職者と直接接触して人材紹介会社に知らせないままに雇用契約を結ぶことを禁止する「直接接触の制限規定」を記載しています。

 

⑷ 就職お祝い金の交付の禁止

過去に、人材紹介会社において、無事就職ができた場合、一定の金員を就職お祝い金等の名目で、内定者に交付していたことがありました。しかし、現在ではこの金員の提供は禁止されています。

というのも、人材紹介者が自ら紹介した就職者に対して、「転職したらお祝い金を提供する」などと持ちかけて転職を勧奨し、繰り返し手数料収入を得ようとする事例があったからです。

このような行為は、労働市場に おける需給調整機能を歪め、労働者の雇用の安定を阻害する行為であり、現在では禁止されています。

 

参考:厚生労働省 都道府県労働局リーフレット

 

5. 人材紹介業特有の問題への弁護士による法的対応

昨今、上記4のうち、⑶直接契約(中抜き)による違約金請求が頻発しており、事例が蓄積されています。また、その違約金額が高額であることから、請求額によっては、中小企業の存続が危ぶまれる場合もあります。

いくつか直近の事例を紹介します。

 

⑴ 東京地方裁判所 令和5年4月24日 判決

事件の概要

・人材紹介会社を営むXが、保育園等を運営するYに対して求職者を紹介しました。

・Yは一度不合格と通知したものの、後にXを介さず求職者と連絡を取り、最終的にその者を採用しました。

・Xは、この行為が契約上の通知義務違反にあたり、違約金200万円と人材紹介手数料33万円(合計233万円)の支払を求めたのです。

・これに対して、被告は通知義務違反のみならず紹介料を免れようとする悪意の意図がないことから原告の主張には理由がないと反論しました。

 

判決の概要

・契約では、通知義務違反があれば悪意の意図は不要と判断され、被告が原告を介さずDを採用し通知義務を怠ったことは違約金200万円の発生要件を満たすとされました。

・契約に基づき、Dの採用によって人材紹介手数料33万円が発生していると認定されました。

 

⑵ 東京地方裁判所 令和5年1月25日 判決

事件の概要

・医療介護を中心にインターネット上で求人サイトを運営するXが、Yに求職者を紹介したところ、Yは当該求職者を採用しました。

・しかし、Yは、その事実をXに伝えず、逆にXに対して、紹介を受けた当該求職者については不採用にしたとの報告をしました。

・Xは、後日、Yの報告が虚偽であることを知ったので、Xは、Yに対して、成功報酬99万円と違約金300万円を請求しました。

 

判決の概要

① 医療機関等に求職者の採用に関して真実の報告を担保するためには、違約金の金額が高額である必要がある。というのも、低額であれば実効性に乏しいからである。

② Yは、違約金に関する条項を含んだ利用規約に同意していること。

③ Yは、求職者名につき、真実は求人サイトを利用して採用したにもかかわらず、故意に不採用である旨通知し、利用料金の支払を免れるという悪質な行為に及んでいること。

等から原告Xの請求を認めました。

 

これらの事件で注目すべきは違約金の額です。

人材紹介会社に交付する成功報酬と比較をすれば、極めて高額の違約金請求であったとしても、裁判所はこれを認める方向にあることに注意が必要です。

 

6. 人材紹介業界における虎ノ門法律経済事務所の解決実績

虎ノ門法律経済事務所では、人材紹介会社から依頼を受け、直接契約(中抜き)による違約金請求事案を数多く取り扱っています。

同時に、「中抜き」を実施してしまったクライアントの代理もしております。

いずれの立場の事案においても取り扱いの実績がありますので、案件に応じて適切な助言をすることができます。

 

7. 弁護士に依頼することのメリット

人材紹介業でのトラブルは、個別の事案を総合的に考慮する必要があり、各事実を立証するためにどのような資料が必要かは、裁判実務を知らなければ対応が難しいです。そのため、会社としては、トラブルを防止するという観点から、事前に弁護士に相談しておくことをお薦めします。

弁護士に相談するにあたっては、「紛争が発生してから」では遅く、その事前段階における準備が必要となりますので、顧問契約を締結していつでもすぐに相談できる状況を整えておくことも前向きに検討して良いでしょう。

 

 

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