2026.06.01
パワハラの証拠の集め方とは?会社側が注意すべき点について弁護士が解説!


篠原 優太
弁護士依頼者の方には、「こんな事弁護士に相談してもいいのだろうか」と思っていらっしゃる方もいます。私はそういう方にこそ相談に来て頂きたいと思っております。そうした相談が、実は重大な法律問題を含んでいたり、弁護士が関与することで事件が大きく進展することがあるからです。
一人で悩む前にまずは相談に来てみてください。
1. パワハラの証拠とは?
パワハラ被害にあったと従業員から相談を受けたとき、事実確認とともに重要なのが証拠の確認です。当事者の主張どおりの事実があったのかを判断するには、証拠が必要であり裏付け無しに処分等はできません。
もっとも、何を信用できる証拠として集めればいいか分からないと思っている方も多いと思います。
簡単にいうと、以下のようなものが証拠として挙げられます。
①録音・録画データ
②被害者と加害者のLINEやメールなどのやりとりの履歴
③動画(防犯カメラの画像等)
④被害者が病院を受診した場合は診断書
⑤被害者の日記やメモ
録音・録画データ、被害者と加害者のSNSやメール等のやりとりの履歴、動画、上司の命令が記載された書面のような客観性のある証拠は信用性が高いといえます。診断書や被害者が作成した日記・メモ、関係者の証言は、それだけで直ちに事実関係を認定することはできず、信用性の判断が必要になります。他の証拠との整合性、具体性、作成日、継続性、作成・証言時の状況等を考慮し、判断します。また、他の証拠の裏付けにもなります。
2. パワハラ発生時は迅速な調査が必要です
令和2年6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化され、大企業は令和2年6月1日から、中小事業主も令和4年4月1日からパワーハラスメント防止措置が義務化されました。
厚生労働省のパワハラ防止指針によれば、職場におけるパワーハラスメントに係る相談があった場合には、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること、その結果、パワハラの事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置・行為者に対する措置を適正に行い、再発防止に向けた措置を講ずることが求められています。これを怠った場合は損害賠償を請求される場合もあります。
では、企業は相談を受けた際、具体的にどのように対応すれば良いでしょうか?
3. パワハラの証拠の種類について
職場におけるパワハラに該当すると考えられる代表的な言動の類型ごとに、その証拠となりやすいものを紹介します。
(1) 身体的な攻撃
→動画、録音データ、事件後のSNS・メール等の履歴、診断書、被害者作成の日記・メモ
動画は防犯カメラの録画を入手したり、第三者に撮影してもらったりすることが考えられます。
経営者としては、パワハラが起こりそうな密室にカメラを設置しておくことも有用です。パワハラ行為を直接記録した重要な証拠になりえます。
ただし、社内の監視カメラの設置は、プライバシー保護等の観点から目的や設置場所の周知をする等、慎重な対応が必要となることに注意が必要です。
録音については、それだけで暴行を認定できない場合もあります。
暴行をしている音だけを録音しても、他の音の可能性が残る以上、暴行を認定しにくいといえます。録音中、暴行をしてくる人の名前や行為の内容を抗議として声に出し、録音すると良いでしょう。例えば、「○○さん、△△するのはやめてください!」といった声を録音に残すことです。
暴行された後、SNSやメールで口止め、謝罪されたやり取りが残っていれば、それも重要な証拠となります。
病院のカルテは、どのような傷害を負ったのかを推認させるだけではなく、受診時に、けがの経緯についてどのように医師に報告したかも確認できます。
(2) 精神的な攻撃
→録音データ、SNS・メール等の履歴、日記・メモ、同僚など関係者の証言が考えられます。
録音データやSNS・メール等の履歴は、直接的な証拠となります。不自然にならないように、編集はしない方がよいでしょう。秘密裡に録音したとしても、著しく反社会的な手段によるものでない限り、証拠として使用できます。
継続的な精神的攻撃なら、日付や具体的な言動を日記につけることも重要です。
「これらは本件紛争が発生する前に作成され、日記という継続的な記録の一環として作成されたものであるから、他に特段の事情なき限り、信用性が高いと認められるものである。」とした裁判例(福岡高判平成25年7月30日)があります。
(3) 人間関係からの切り離し
部屋、席が隔離された場合等であれば写真を撮っておくことも証拠になります。
無視等であれば直接的な証拠を得ることは難しいですが、関係者の証言が証拠となります。利害関係のない第三者からの証言であれば、より信用性が高いといえます。
(4) 過大な要求
→実際に命じられた業務の内容を証明する証拠を得る必要があります。
直接的な証拠としては、SNS・メール等でのやりとり、業務命令や辞令等の書面が考えられます。
また、日記・メモ、関係者の証言も証拠となります。
精神疾患を有していて業務証の軽減が必要な状況であったのならば、病院に受診してそれを証明する診断書を作成してもらうことも重要です。
(5) 過小な要求
→配置転換されたことを証明する証拠(辞令?)、配置転換先のポストが能力とかけ離れている業務内容であることを証明する証拠が必要です。
(6) 個の侵害(私的なことに過度に立ち入る行為)
→録音データ、被害者と加害者のSNS・メール等の履歴、日記・メモ、関係者の証言などが考えられます。

4. パワハラ発生時に企業が取るべき対応について
⑴ まずは事実関係の確認
被害者の相談や他の従業員からの申告があった場合には、まず、相談者と行為者の就業場所の隔離等の配慮をしたうえで、事実関係の確認を行います。
事情聴取は、通常、被害者の事情聴取を先行して実施します。
・パワハラの日時
・場所
・具体的態様、回数
・被害の程度
・経緯
・目的(指導教育の目的の有無)
・加害者と被害者の地位・関係
・業務への影響、被害者の対応
・加害者の反省・謝罪の有無
・被害者の相談の有無等
について事情聴取を行います。聴取した内容はすぐに整理し、内容に誤りがないかを聴取対象者に確認してもらいましょう。同時に証拠の提示も求めてください。
調査段階で問題が外部に漏れないように、聴取対象者は必要最小限とし、守秘義務を負わせてください。
また、事情聴取は、複数人で実施し録音した上、記録化します。懲戒処分の効力が問題となったときに、事情聴取の際の録音や事情聴取書等の記録が、処分の適正を裏付ける証拠ともなります。
⑵ 加害者の処分
就業規則の懲戒事由を確認し、ハラスメントが懲戒事由とされていなければ、「会社の秩序又は風紀を乱したとき」などの一般的な懲戒事由の適用を検討します。
⑶ 再発防止措置
以下のことを行い、再発防止に努めます。
①企業トップからパワハラは許さないとのメッセージを会社全体に送る。
②就業規則において,パワハラ禁止や処分に関する規定を設ける
③社内アンケートなどで実態を把握する
④管理職研修,従業員研修を実施する。
⑤組織のルールや相談窓口について周知する。
⑥相談や解決の場を提供する
⑷ 被害者への配慮のための取り組み
→行為者に対する対応が必要な場合、一人で対応させない、メンタルヘルス不調への相談など、対応を行います。
⑸ 相談者・行為者等のプライバシー保護措置
マニュアルの作成をしておき、それに基づき対応します。
事情聴取の際には、申告者が特定されないように、被害を受けたという主張の内容を抽象化しておきましょう。
⑹ 相談を理由とした不利益取り扱いの禁止
事業主は、労働者が職場におけるパワーハラスメントについての相談を行ったことや、雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取り扱いをすることが、法律上禁止されています。
5. パワハラについて経営者からよくある質問
Q1:どの行為がパワハラにあたるのでしょう?
経営者の方から一番多い質問は、どの行為がパワハラで、どの行為がパワハラでないか、いわゆるパワハラの線引きのような質問が多いです。
A1:そもそも、職場における「パワーハラスメント」とは、
職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境 が害されるものであり、
①~③までの要素を全て満たすものをいいます。
客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、 パワハラに該当しません。
Q2:具体的なパワハラの類型にはどのようなものがありますか?
A2:いわゆるパワハラの6類型は、以下の通りです。
(a) 身体的な攻撃(暴行・傷害)
具体的には殴打・足蹴り、物を投げつける等
(b) 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
具体的には、人格を否定するような言動や、相手の性的指向・性自認に関する侮辱的言動をすること
業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと、
他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと、
相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛に送信すること
(c) 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長時間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること、
1人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること
(d) 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること、新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること、
労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること
(e) 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
管理職である労働者を退職させるため、だれでも遂行可能な業務を行わせること、
気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと
(f) 個への侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること、
労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること
Q3:事業主が責任を負うことはあるのでしょうか?
A3:使用者責任(不法行為)、職場環境配慮義務違反の債務不履行責任を負う可能性があります。
パワハラについては、労働施策推進法の改正により、パワハラ防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられました(大企業は令和2年6月1日から、中小企業は令和4年4月1日より)。
パワハラへの対応を適切に行わないことで、上記の責任を負う可能性は、高まっています。
Q4:事業主は何をしなければならないの?
A4:事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
パワハラの内容及び発生原因、パワハラを行ってはならない旨の方針を就業規則や社内報、パンフレット、ホームページ等に記載する。パワハラを行ってはならない旨の方針を周知・啓発するための研修棟を実施。研修内容や受講者に関する記録を残しておくことで、懲戒処分の妥当性を基礎づける証拠ともなりうる。中途採用者も対象とした研修を行うべきです。
また、職場におけるパワハラを行った者については厳正に対処する旨の方針・対処音内容を就業規則等に規定し、周知・啓発します。
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備も必要です。
通報・相談窓口を設置するだけではなく、役職員への周知の徹底、社内における制度の浸透が必要。相談を受けた際のマニュアル作成や相談対応の研修を行います。
6. 訴訟や労働審判で証拠となる内容とは?
訴訟や労働審判だからといって、証拠がガラリと変わるわけではなく、
①録音・録画データ
②被害者と加害者のLINEやメールなどのやりとりの履歴
③動画(防犯カメラの画像等)
④被害者が病院を受診した場合は診断書
⑤被害者の日記やメモ
が証拠になりえます。もっとも、訴訟や労働審判の時点では、会社の調査も進んでいることでしょうから、
・被害報告があったときの調査の際に会社がヒアリングにより作成した調書(本人の署名・押印)や
・パワハラの調査報告書(ヒアリング結果や調査の際に収集した証拠を踏まえて会社が作成したもの)などが提出されることも多く、これは多くの証拠の集積ともいえることから、裁判官や審判員、調停委員が真っ先に目を通す重要な証拠となります。
7. 物的証拠がない場合の会社側のパワハラへの対応は?
物的証拠がなかったとしても、パワハラ被害を訴えている当事者がいる以上、聴き取りは可能なはずです。よって、まず、当事者の言い分をまとめることが必要です。ここで大事なのは、パワハラの申告をされること自体が強い心理的負担を当事者に与えるものであり、配慮が必要です。パワハラの認定がされなくても、当事者同士が業務上関わる機会をできるだけ減らす必要があります。
8. パワハラ認定を受けてしまった!対処法は?
・パワハラを主張した本人に対する行動(攻撃的な言動を取る、釈明をする等)は避けましょう。
被害者とされる者の人格攻撃に及ぶような行為は慰謝料の増額要素として考慮されるおそれがあります。
・上司、人事部に対して誠実に事実関係を報告(具体的・客観的に)
被害者の主張について、どの部分が事実と異なるのかについて、具体的かつ詳細に述べるべきです。証拠がない場合には、供述の信用性を判断する際にも具体性が考慮されます。
・被害者が虚偽の申告をし、懲戒処分を受けた場合には、懲戒処分の効力を争うこと、申告者に対する名誉棄損を理由とする損害賠償請求をすることが考えられます。
・申告者の申告どおりの事実があった際には、示談を進めることになるでしょう。
9. まずは弁護士にご相談ください
多くの記載をしましたが、パワハラ問題は、労働者のモチベーションを下げ、企業の内部崩壊を招きかねない重大な問題です。その認定や判断をする際には、専門的な知識が必要のみならず、当事者にかなりのストレスがかかります。独善的な間違った判断をしないためにもまずは弁護士にご相談下さい。

篠原 優太
弁護士依頼者の方には、「こんな事弁護士に相談してもいいのだろうか」と思っていらっしゃる方もいます。私はそういう方にこそ相談に来て頂きたいと思っております。そうした相談が、実は重大な法律問題を含んでいたり、弁護士が関与することで事件が大きく進展することがあるからです。
一人で悩む前にまずは相談に来てみてください。








・相談窓口の担当者、人事部門、専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認します。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止め等その認識にも適切に配慮することが大事です。
・両者の主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないときは、同僚などの第三者からも聴取する等の措置を講ずることになるでしょう。
・事実関係を迅速かつ正確に確認しようとしたけれど、確認が困難な場合などもあると思います。その場合は、調停の申請やその他中立な第三者機関に紛争処理を委ねるべきであるとされています。
※事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】