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2024.08.08

パワハラ上司の特徴とは?その種類と具体的な事案、会社が取るべき対処法・処分について弁護士が解説!

パワハラ上司の特徴とは?その種類と具体的な事案、会社が取るべき対処法・処分について弁護士が解説!
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立畑 徳和

弁護士
虎ノ門法律経済事務所 岡山支店長
弁護士として日常生活の不安を取り除くサービスを提供しています。お客様に、晴れやかな気持ちで日常生活を送っていただけるよう、お一人おひとりの声に耳を傾け、共に悩み、真心を込めて、解決に向けて粘り強く取り組んで参ります。

1 パワハラしがちな意外な上司のタイプ

そもそも、どういった上司がパワハラをしてしまいがちなのでしょうか。「パワハラ上司」になりやすい方としては、次のようなタイプが挙げられます。

(1)分かりやすいタイプ

パワハラ上司になりやすい上司の典型的なタイプとして、

① 激情型

② 熱血コーチ型

③ プライドが高い

④ すぐに言い訳をする

⑤ 自分が一番

といった資質を持った人が挙げられます。こうしたタイプのたちがパワハラ上司になりがちなことは、イメージしやすいのではないでしょうか。

こうしたタイプの人たちに共通するのは、相手(部下)の立場や相手(部下)が置かれている具体的な状況を理解(配慮)せず、独りよがりなペースでどんどん仕事を進めていったり、進めていこうとする点です。

こうしたタイプの人たちは、自らの地位を利用して、自分が過ごしやすい職場環境にすることを優先して業務上の指示や命令を行うため、パワハラ上司になりがちです。

もっとも、会社としても見分けられやすいので、予防も含めた対処がしやすいといえます。

(2)意外なタイプ

(ア)外交的で社交的かつ協調性がない

やっかいなのが、会社として見分けづらいタイプの上司です。実は、パワハラ上司になりがちな意外なタイプとして、「外交的で社交的」なタイプも挙げられます。もっとも、「外交的で社交的」であれば当てはまるというものではなく、「外交的で社交的」であるだけでなく「協調性が低い」という資質も兼ね備えていると、パワハラ上司になりがちです。

(イ)外交的で社交的でも協調性が低い上司の特徴

協調性がない人は、組織や他人に関心がないタイプであることが珍しくありません。そのため、逆に組織や部下と距離を取りがちなのでパワハラ上司になるほどの接点はないと思われるかもしれません。

しかし、これに「社交的で外向的」な資質も持ち合わせた上司となると、会社という組織の中でそれなりの地位に立っているだけでなく、営業成績などで会社から評価を受けてきた実績を持っています。そのため、ノルマや実績を上げるためのコミュニケーションは積極的に行います。

一方で、協調性が低いため、その目的はあくまでも自分の利益(自分の評価の上昇)の追求でしかなく、本当の意味での会社や部下の幸せに関心はありません。つまり、他者を尊重する意識が欠けているため、自分の目的にとってマイナスとなるような行動をとった部下に対し、威圧的や無視といったパワハラに該当するような言動をする可能性が高いのです。

(ウ)会社にとってのやっかいな理由

こうしたタイプは、表面的には「外交的で社交的」であることから、上層部に評価されていることが多いため、パワハラが顕在化しづらいといった状況に陥ります。つまり、被害者から上層部にパワハラの訴えがあっても、パワハラ上司側の「指導のつもりだった」「励ますつもりだった」といった言い訳が受け入れられてしまい、「少し行き過ぎた教育だった」、「部下にも問題があったのでは」といった形で処理されてしまいがちです。

その結果、部下の退職やパワハラを理由とした裁判を起こされたときに初めて問題が顕在化し、会社(経営者)としても、この時点で初めて問題を認識(自覚)するということになり兼ねません。

(3)会社の対策として

そこで、会社としては、こうしたタイプもパワハラ上司になりがちであることを、まずは認識(自覚)しておくことが大切です。

こうした問題意識を共有しておくことで、「少し行き過ぎた教育だった」、「部下にも問題があったのでは」といった処理にとどまることなく、しっかりとパワハラの実態を把握するとともにパワハラの芽を摘む教育をしておくことが望まれます。

対応方法については下記の「8 弁護士によるパワハラへの対応」にてご説明いたします。

2 これってパワハラ?パワハラの具体的な事例について

では、どういった言動がパワハラになるのでしょうか。まず、パワハラの定義についておさらいしましょう。

職場でのパワーハラスメントとは、

① 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること

② 業務の適正な範囲を超えて行われること

③ 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、または、就業環境を害すること

のいずれの要素も満たすものとされています。

これを踏まえ、厚生労働省が公表している代表的な言動の6つの類型をみていきましょう。

(1)身体的な攻撃

  • 殴打、足蹴りを行う。
  • 相手に物を投げつける。

(2)精神的な攻撃

  • 人格を否定するような言動を行う(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む)。
  • 業務の遂行に必要な以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。

(3)人間関係からの切り離し

  • 1人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる。

(4)過大な要求

  • 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底できないレベルの業務目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する。

(5)過小な要求

  • 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。
  • 気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない。

(6)個の侵害

  • 労働省の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する。

次に、裁判所がパワハラと認定した事例と認定しなかった事例を紹介します。裁判では、上記の要件のうち、特に②の業務の範囲内を超えたものかどうかが問題(争点)となることが多いです。

⑴ 指導の一環として発せられた「能力が低い」「出来が悪い」という発言が業務指導の範囲を超えるとされた(パワハラと認定された)事例(東京地裁平成28年7月26日判決)

【事案の概要】

部下の業務効率を改善するための指導の一環として実施された個人面談の中で、①「悪いこと?出来が悪い。出来が悪いというだけの話。しかも人が言ったことを全く無視してる。サラリーマンとして最悪じゃない?」、②「能力が劣っていると思う」、「能力が劣っているのと、やり方が悪い」といった発言をしたことが業務指導の範囲を超えるものといえるか問題となりました。

①の発言は、残業をする場合はその都度申請するように指導しており、部下も了承していたにもかかわらず、事前申請をすることなく1か月後にまとめて申請をしてきたことに対してされたものでした。

②の発言は、残業が不要な社員がいることや残業時間を減らす努力をするよう求める発言に対して、具体的に業務改善の余地を検討することに対し消極的な姿勢を示し続けたことからされたものでした。

【裁判所の判断】

裁判所は、こうした上司の発言に対し、実際の業務の在り方をどのように効率化するかということを粘り強く指導を続ける中でしたものであり、「能力が低い」「出来が悪い」といった表現は、その趣旨をこれまでに検討した経緯及び文脈の中で理解すれば、部下が適切かつ効率的な業務遂行に熱心でないため、業務遂行状況(出来)は悪く、より良い業務遂行状況を実現する力(能力)も低いと評価せざるを得ない旨を表現したものと解することができるとしつつも、「端的に「能力が低い」とか「出来が悪い」などといった表現を用いることは、具体的な事柄を取り上げて発言の相手方を指導するというよりは、発言の相手方について、その能力や当人の行っていることを全体として否定する趣旨に解され、その背景に相手方に対する業務指導を行う意図があったとしても、業務指導としての範ちゅうを超えて、相手方の人格を否定し、侮辱するものといわざるを得ない。」と判断しました。

【ワンポイント解説】

裁判所は、上司の発言に至った具体的な経緯も考慮しており、悪意を持ってこうした発言に至ったわけではないことに理解を示しつつも、本件の「能力が低い」、「出来が悪い」といった表現は指導の範囲を超えたものと判断しています。裁判所が指摘するように、本件でのこうした表現は、「人として能力が低い」「人として出来が悪い」と捉えられ兼ねず、そうなると部下の人格を攻撃するものと評価されますので、許されないと言わざるを得ないでしょう。

一方で、上司による「もうちょっとできる人に代わってもらおうと思っている」との発言に対しては、部下が「「できない人」であることを示唆するように思われ、表現として穏当を欠く面があるといえるが、その前後の文脈も踏まえれば退職の強要といった趣旨に解すべきものではなく、他の者であればより効率的に業務を遂行して残業を抑えることができる旨を指摘し、効率よく業務を行うようにすべきである旨指導の一環として述べたものと解され、なお業務指導の一環として是認することができる」と判断していますので、全てをパワハラと判断している訳ではありません。もっとも、「表現として穏当を欠く面があるといえる」としつつ、前後の文脈から業務指導の一環として認められるとしているに過ぎませんので、場合によっては業務指導の範ちゅうを超えたものと判断される可能性がありますので、注意が必要でしょう。

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⑵ 先輩従業員による「お前の仕事が遅いから、俺がしなければならなくなった」、「余計なことを言うな」「ごちゃごちゃ言わんと早うやれ!」との発言が、パワハラに該当しないとされた事例(大阪地裁平成25年12月10日判決)

【事案の概要】

先輩社員の後輩社員に対する次の発言が、パワハラに該当するか問題となりました。

①後輩社員の重大なミスによって納期を守れない危機に瀕した状況になった際に、「お前の仕事が遅いから、俺がしなければならなくなった」と発言したこと。

②後輩社員が客に新商品をすすめた際に、「その商品は原価が高いので店が損する、余計なことを言うな」と発言したことや先輩社員から伝えられた接客方法に対し反論した際に、「お前、誰に言うてんのや。ごちゃごちゃ言わんと早よやれ!」と発言したこと。

【裁判所の判断】

裁判所は、①について、「自らの業務上のミスにより他の従業員にしわ寄せが及んだという事実を伝えて反省を促すことは、その時期や方法等につき当否の問題はあろうが、必ずしも業務上の指導として不当なものとはいえない」と判断しました。

また、②については、「作業に関し意見の衝突が生じたというに過ぎず、後輩社員の意見が正しく先輩社員の意見が間違っていると断定する根拠もない上、当時、指導を受ける立場にあったことに鑑みれば、その指示に従うべき事は当然のことというべきであり、後輩社員の意見とは相容れないものであったとしても、これをパワーハラスメントということはできない」と判断しました。

【ワンポイント解説】

裁判所は、実際に起こった事実を伝え反省を促す趣旨の発言だったと認められるものは、必ずしも不当なものではないとしています。また、後輩社員は先輩社員の指導を受ける立場に立つ以上、先輩社員による指導が理不尽なものと認められない限りは、後輩社員の意見を入れず厳しい発言をしたとしても直ちにパワハラに該当するものではないと判断しています。

もっとも、①の発言に対しては、「その時期や方法等につき当否の問題はあろうが」と一言添えていることから、同じミスに対して執拗に反省を促すような言動を繰り返した場合などは、パワハラとされる可能性があります。

 

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ワンポイントアドバイス

上記の裁判所の判断を見ると、必要性が認められない言動と判断されるものについては、パワハラとしているようです。

つまり、具体的な仕事内容や実際に起きた事象を指摘した中での言動であれば、指導の範囲のものと判断される可能性が高いといえます。一方で、実際に起きた事象の指摘を超えて、その人の人間性(人格)を攻撃するような表現(「無能」や「出来が悪い」など)をした場合は、指導の範囲を超えたものしてパワハラと判断される可能性が高いといえるでしょう。

したがいまして、会社としてパワハラ上司を生まないためには、こうした点を踏まえて指導するよう教育することが大切になってきます。

3 パワハラを理由に懲戒処分をする際の注意点とは?

上司によるパワハラが発覚した場合、会社としては、直ちに適切な懲戒処分を行う必要があります。しかし、懲戒処分に至るまでの過程や処分を誤ると、それ自体が違法とされ、その上司から訴えられるリスクが生じます。

以下では、懲戒処分時をする際の注意点を見ていきます。

(1)処分の根拠が存在しているか

パワハラを理由に上司に対し処分を行う場合、その根拠が就業規則に定められている必要があると考えられています。したがいまして、そもそも就業規則に懲戒処分についての規定がない場合は、処分をすることができないことになります。

(2)懲戒処分の内容が適切か

就業規則に定められている懲戒処分は、軽いものから重いものまで段階的に定められています。このうち、最も重いものは「懲戒解雇」ですが、パワハラを理由に安易に懲戒解雇や出勤停止といった重い処分を選択してしまうと、その処分の不当性を争われて違法な処分だったとされるリスクがあります。

そのため、会社としては、問題となったパワハラ行為がどういったものであるかなど、各事案の具体的な内容に照らして適切な懲戒処分(種類)を選択する必要があります。

4 パワハラ上司を辞めさせる場合の注意点(事例とともに)

さらに踏み込んで、パワハラを理由に辞めさせたい場合、どういった方法があるでしょうか。パワハラ上司を辞めさせる方法として、

・退職勧奨

・普通解雇

・懲戒解雇

といったものが挙げられます。

(1)退職勧奨について

退職勧奨とは、会社が従業員に対して自ら退職すること(辞職や労働契約の解約)を促すことをいいます。解雇ではないので、解雇が認められるための厳格な要件を満たしていなくても「辞めさせる」という目的を達成することができます。

しかし、あくまでも任意の退職を促すものでしかありませんので、パワハラ上司の自由意思を侵害するような方法は許されません。そのため、退職勧奨に応じる意思がないことが示されたにもかかわらず、退職に伴う新たな条件の提示もないまま説得を継続すると、違法な行為、それこそ「パワハラ」と認定されてしまう恐れがありますので、注意しましょう。

(2)普通解雇

普通解雇とは、労働者の能力不足や協調性が不足していることなどを理由として、労働者を解雇することです。

引用元:「懲戒解雇の会社側のデメリットとリスクの回避策を弁護士が分かりやすく解説!」

そのため、パワハラを理由として普通解雇をすることが認められるケースもあります。

もっとも、普通解雇をする場合、原則として、少なくとも解雇の30日前に予告をしなければならず、予告しない場合は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないとされていたり(労働基準法20条1項)、普通解雇の根拠となる規定を就業規則に定めておく必要(就業規則を定めている会社に限ります。)があったりと、形式面にも気を付けなければなりません。

その上で、問題となったパワハラ行為を理由に解雇することに、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、解雇権濫用として解雇が無効とされてしまいますので(労働契約法16条)、注意が必要です。

解雇については、以下でも詳しく解説していますので、参考にしてみてください。

解雇・退職勧奨に関する記事一覧はこちら

(3)懲戒解雇

懲戒解雇とは、懲戒権の行使を伴う懲戒処分の一種で、労働者による企業秩序の違反行為に対し、使用者によって課せられる制裁罰をいいます。

引用元:「懲戒解雇の会社側のデメリットとリスクの回避策を弁護士が分かりやすく解説!」

懲戒処分の一種である以上、就業規則などで根拠となる「懲戒の種別と事由」を定めていなければなりません。また、最も重い懲戒処分となりますので、懲戒処分としての「解雇」を選択せざるを得ない「懲戒解雇事由」に該当する事情が認められるだけでなく、弁明の機会の付与など懲戒解雇処分に至るまでの手続の相当性も必要となります。

以上に加え、「解雇」であることに変わりはありませんので、上記の普通解雇の箇所でご説明した解雇予告または解雇予告手当が原則として必要とされたり、解雇権濫用として解雇が無効とされる恐れもあります。

このように、パワハラ上司を懲戒解雇する場合には、慎重な対応が求められます。

懲戒解雇について詳しく解説はこちら

(4)パワハラを理由とする普通解雇が有効とされた事例

(東京高裁平成28年11月24日判決)

【事案の概要】

Y社は、従業員Xが、他の従業員に対し、大声で怒鳴ったり叱責していたことから、他の従業員からの相談があった際などに、言葉遣いや態度を改めるよう注意していた。

しかし、Xは態度を改めることなく、他の従業員との協調性を欠き、罵倒、叱責を繰り返し、再三の注意に対しても改善がみられなかったことから、同社の就業規則の解雇事由として規定されている「協調性がなく、注意及び指導しても改善の見込みがないと認められるとき」、「会社の社員としての適格性がないと判断されるとき」に該当するとして、解雇予告を通知したうえで解雇した。これに対し、Xが、解雇は無効であるなどと争った。

【裁判所(控訴審)の判断】

Y社は小規模な会社であるから、Xをこのまま雇用し続ければ、その言葉遣いや態度等により、他の職員らとの軋轢がいっそう悪化し、他の職員らが早退したり退職したりする事態となり、Y社の業務に重大な打撃を与えることになると判断したのも首肯できる。Y社の規模では、Xの配置換えも事実上困難であるから、この方法によって職員同士の人間関係の軋轢を一定程度緩和させて職場環境を維持することもできず、解雇に代わる有効な代替手段がないことも認められる。

そして、これまで再三にわたり言葉遣いや態度等を改めるよう注意し、改めない場合にはY社を辞めるしかないと指導、警告してきたにもかかわらず、Xは反省して態度を改めることをしなかった。

そうすると、Xについては、就業規則に定める解雇事由に該当し、しかも、本件解雇はやむを得ないものと認められるから、本件解雇につき客観的に合理的な理由がないとか、社会通念上も相当として是認できないとかいうことはできない。

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【ワンポイント解説】

裁判所がY社による普通解雇を有効と判断したのは、再三にわたり注意されたにもかかわらず、これを改めなかったことや、Y社が小規模な会社であったことから配置換えなどで対処することも難しく、同様の状況が続くことでY社の業務に重大な打撃を与えると判断したこともやむを得ないとまでいえるほどの実態があったからです。

裁判所は、単にパワハラが繰り返されただけではなく、これに対する再三の注意そして指導、警告によって改善の機会が与えられていたこと、更には会社の規模との関係で代替手段がなかったことなどを総合的に判断したうえで、本件解雇をやむを得ないものとした点には注意が必要です。

会社が調査した結果、複数回にわたるパワハラが発覚したからといって、直ちに解雇してしまうと、解雇無効とされる可能性があります。そのため、直ちに解雇するのではなく、どういった類型のパワハラだったのか、改善の機会を与えることが相当か、配置転換などで対処できないかなど、事案ごとに様々な手立てを考えながら解雇に向けて対応していく必要があります。

5 パワハラについて会社が取るべき対応

法律上、会社が必ず講じなければならないとされている措置として、次のものがあります(厚労省パワハラ指針)。

(1)事業主の方針等の明確化および周知・啓発

① 職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること。

② 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発すること。

(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。

④ 相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること。

(3)職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること。

⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。

⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと。

⑧ 再発防止に向けた措置を講ずること。

(4)そのほか併せて講ずべき措置

⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者

に周知すること。

⑩ 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取扱いをされない旨を定め、労働者

に周知・啓発すること。

そして、労働者が職場におけるパワーハラスメントについての相談をしたことや雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由として不利益な取扱いをすることも、法律上禁止されています。

具体的な事例でみてきたように、面談や指導の流れの中で意図せずパワハラに該当する言動が発現してしまうことも珍しくありません。こうしたことは、これまでの職場の環境や社員の価値観が実社会に追い付いていないことも要因となっています。

そのため、会社として、職場内でパワハラが起こらないよう職場環境の見直しを行い、積極的に研修を行うといった対策をすることが望まれます。

それだけでなく、会社としては、いつ起きてもおかしくないものとして、常日頃からパワハラ被害に遭った従業員や目撃した従業員がいつでも相談・申告できるような体制を整えておくべきです。そのためには、相談内容やプライバシーがしっかりと守られ、安心して相談できる環境を整備しておく必要があるといえるでしょう。

6 パワハラ被害の相談を受けた際の会社の対応

会社が設けた相談窓口に対し、従業員や取引先からパワハラ被害の相談があった場合の会社の対応についてみていきます。

(1)事実関係の迅速かつ正確な調査

パワハラ被害の相談や申告があった場合、すぐに正確な事実関係の調査を行うことになります。まずは、相談者から、

① 誰が、

② いつ(年月日、時間、頻度や期間)、

③ 誰から(相談者との関係)、

④ どのような(場所、状況、パワハラと感じた具体的な言動など)、

⑤ 同席者や目撃者の有無とその人物の属性(名前、所属、役職など)、関係するメール

や記録の有無

といったことを聞き取ります。そして、この聞き取った内容に基づいて、加害者や目撃者などからも聞き取りを行い、正確な事実関係を把握するようにします。

このとき、聞き取りの対象者全員に対して、「プライバシーの保護と情報管理を徹底するため、本件に関しては絶対に口外しないようお願いします。」と伝えておくべきです。

また、被害者や申告者に対しては、「この相談や申告によって、社内的に不利益を受けることは一切ありません。」ということも伝えておくべきです。

一方で、加害者とされる人物に対しては、メールや目撃者からの聞き取りによって被害(パワハラ)の実態が推定されるような場合には、二次被害を含む更なる被害の発生や事態の悪化を防ぐため、「調査が終わるまでは、●●氏との接触をしないように。」と伝えておくべきでしょう。

(2)被害者への適正な配慮措置

調査の結果、パワハラ被害が認められた場合、会社は直ちに被害者を守るための措置を取る必要があります。厚生省の指針によると、次のような措置をとっていれば、適正に行っているとされています。

① 事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と

行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること。

② 労働施策総合推進法30条の6に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案

に従った措置を被害者に対して講ずること。

(3)加害者への適正な措置

調査の結果、パワハラ被害が認められた場合、当然、加害者に対しても適正な措置を取る必要があります。厚生省の指針によると、次のような措置をとっていれば、適正に行っているとされています。

① 就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるパワーハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講ずること。

② 労働施策総合推進法30条の6に基づく調停その他中立な第三者機関の紛争解決案に従った措置を行為者に対して講ずること。

なお、このとき選択する処分の内容が適切でなければならないことは、上述(上記3の記事に飛べるようにする)のとおりです。

(4)再発防止策を講じる

パワハラの実態が発覚した以上、会社としては、改めて職場におけるパワハラに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じなければなりません。また、厚生省の指針では、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合でも、同様の措置を講ずることとされています。そして、同指針によると、次のような措置をとっていれば、適正に行っているとされています。

① 職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針及び職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること。

② 労働者に対して職場におけるパワーハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること

7 その他に会社で起こりやすいハラスメント

会社内では、パワハラだけでなく、以下のようなハラスメントが起こりやすいとされています。[1]

・セクシャルハラスメント(セクハラ)

・妊娠・出産・育児休業等ハラスメント(マタハラ、パタハラ)

・カスタマーハラスメント(カスハラ)

・介護休業ハラスメント(ケアハラ)

・時短ハラスメント(ジタハラ)

これらはいずれも、労働者の職場環境が害されるという点ではパワハラと異なりません。そのため、これまで見てきたパワハラへの対応と同じく、会社として適切な対応が必要となります。

会社としては、ハラスメント関連法や指針に従った防止装置を講じるだけでなく、各種ハラスメントが発生してしまった場合に、大切な従業員を守るための「迅速かつ適切な対応がとれる体制」を整えておくことが重要です。

これら各種ハラスメントについては、以下の記事で詳しく解説していますので、確認してみてください。

ハラスメントに関する記事はこちら

 

[1] 厚労省「あかるい職場応援団」、『裁判例・指針から読み解くハラスメント該当性の判断』P3~、

8 弁護士によるパワハラへの対応

これまで、パワハラに関する会社としての対処法などをみてきましたが、実際に会社の中だけで全てを実現することは難しいと思います。弁護士に依頼することで、法律上必要とされている措置だけでなく、会社にとって有益かつ適正な措置を講じることができます。

特に、社内研修、パワハラの実態調査、パワハラ上司に対する適正な懲戒処分の選択といったことについては、専門家である弁護士の力を借りることで、将来的なリスクの回避にもつながります。

早い段階で弁護士のような専門家を入れて対策を講じておくことで、潜在的・将来的なものも含め様々なリスクを回避・予防することができますので、パワハラ対策を検討しているようでしたら、まずはお気軽にお問い合わせください。

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