2024.12.16
うつ病(精神疾患)になった従業員を解雇するには?うつ病の従業員を解雇する際に必ずさえておくべき注意点を弁護士が解説!



坂本 恵子
弁護士1.はじめに
近年、うつ病や双極性障害(躁うつ病)にかかる人が増えていると言われています。
さらに、年代別患者数を見ると、40代・50代の患者数が突出しており、働き盛りの年代に患者が多いと思われます。
会社側としては、働けなくなった従業員がいたら解雇して新しい人を雇いたいと思うのは自然なことかと思いますが、業務災害によってうつ病となった従業員を解雇するには、法律などで厳しい条件が決められています。
2.業務災害によるうつ病とは
業務災害によるうつ病と判断される要素はいくつかありますが、よくあるのは、長時間労働、長時間勤務による疲労、昇進や降格などの環境面の変化が挙げられます。また、最近よく聞くもので、上司によるパワハラやセクハラが原因となってうつ病にかかるケースもあります。
そこで、会社として、業務災害によってうつ病になった従業員に対し、どのような対策を取るべきか、対策をとっても従業員が復職できない場合、どのような条件を満たせば解雇できるのかを見ていきましょう。
3.会社がとるべき対策
(1)休職等の指示
会社は、 従業員の心身の健康と安全を守るために配慮すべき義務を負っています(労働契約法5条)。これを安全配慮義務と言います。
そこで、従業員がうつ病を理由に休職の申し出をしてきた場合、まず、従業員の健康状態を医師に判断してもらうようにしましょう。
具体的には、従業員に医師による診察を受けさせ、医師に休職の必要性があるかを判断してもらいます。その結果、医師が休職の必要性ありと判断した場合、会社は従業員を休職させなければなりません。
また、従業員から求職の申し出がない場合であっても、従業員の様子が明らかにおかしく、業務によってうつ状態にあると見受けられる場合、会社は、従業員に病院の診察を受診させる等して、診断に応じた対応をしなければなりません。
これらを怠ると、会社は、安全配慮義務違反による損害賠償責任を負います。
なお、従業員からの申し出がなくても、会社において、従業員がうつ病であるとの予想が可能で、業務軽減等の措置をとることが可能であった場合、申し出がないことをもって損害額を減額することはできません(東芝〔うつ病・解雇〕事件〔最二小判平成26年3月24日・労判1094号22頁〕)。
(2)休職中の賃金について
会社は、休職することになった従業員に対し、就業規則に休職中の賃金支払いの規定がなければ、原則として賃金支払いは不要となります。
従業員は、会社から賃金をもらえませんが、業務による病気の場合、労災保険の休業補償給付を受けることができます。
なお、業務以外によってうつ病となった場合、従業員は、健康保険組合から傷病手当を受けることができます。
(3)復職時の対応
医師の診断によって、復職可能となった場合には、会社は、従業員を復職させなければなりません。
このとき、会社としては、医師等の専門家の意見を聞いて、元の部署での復職が難しければ、従業員の状態に合わせて、他の部署への復職可能性を検討する必要があります。
この点、会社がうつ病の従業員に対し、業務上の配慮を行っていたにもかかわらず、従業員の勤務状況の改善が見られなかった場合に、就業規則の解雇事由に該当するとして行われた解雇を有効と認めた裁判例があります(東京地裁平成19年6月8日判決)。
【東京地裁平成19年6月8日判決】
「原告の欠勤及び年休の消化状況からはとても健全な勤務を原告に望むことができないことは明らかで、被告はそれでも原告に対して業務上の配慮をしてきたことが窺えるところ、平成18年に至って原告の勤務状況の改善は期待できず、返って診断書によれば抑うつ状態というこれまで以上の勤務の困難性が明らかになったことから、被告は原告に退職勧奨したものの、原告が応じなかったことから本件解雇をしたものである。
上記原告の勤務状況は、被告の就業規則にある解雇事由中の「出勤常ならず勤務に不適と認められるとき」及び「心身に故障があるか、又は虚弱であって、業務に堪えられないと認めたとき」に該当することは明らかといわなければならない。」と判示し、腰の持病により長期休職し復帰から数年後にうつ病で度々欠勤するようになった労働者に対する解雇が、その欠勤などの状況から健全な勤務を望むことができないことは明らかであり、会社は相応の業務上の配慮をしてきており、就業規則の解雇事由に該当するとして有効と判断されました。
会社は、うつ病の従業員に対し、(1)~(3)に掲げた対応をしなければなりませんが、それでもうつ病が改善しない場合もあると思います。
そこで、どのような場合に、会社がうつ病の従業員を解雇できるのかを見ていきましょう。
4.どのような場合にうつ病の従業員を解雇できるのか
(1)治療中の解雇の場合
業務災害によるうつ病の場合に、治療や療養のために仕事を休む必要がある期間及びその後30日間は、従業員を解雇することが法律で禁止されています(労働基準法19条1項)。
よって、うつ病の治療中(もしくは療養中)に従業員を解雇すれば違法となり、解雇は無効となります。
なお、治療中(もしくは療養中)であっても、例外的に解雇が認められる場合があります。それは、
① 会社が医療費を負担するなどの療養補償を行っている場合で
② 病気やケガをしてから3年経っても完治していない場合で
③ その会社の平均賃金1200日分の補償(打切補償)が支払われる場合
です(労働基準法81条)。
①については、労災で治療費が支払われている場合でも、この要件を満たすことが判例で認められており(専修大学事件〔最二小判平成27年6月8日・労判1118号18頁〕)、③については、従業員が労災から傷病補償年金の支払いを受けている場合や病気やケガをしてから3年経過後に傷病補償年金を受けることになった場合、打切補償が支払われたものと同視され、企業の負担で支払いをしなくても解雇が可能です(労災保険法第19条)
ただし、これら①~③の要件をすべて満たす場合であっても、さらに法律上、
(ⅰ)解雇に客観的に合理的な理由があること
(ⅱ)解雇が社会通念上相当であること
の二つの要件を満たす必要があります(労働契約法16条)。
(2)治療後の解雇の場合
治療後に解雇を行う場合、就業規則や雇用契約書、労働条件通知書などに具体的な規定が必要となります。そこで、まずはこれらの規定がどのような記載になっているのかを確認する必要があります。
もっとも、これらの規定に治療後の解雇の規定がある場合であっても、直ちに解雇できるわけではありません。すなわち、会社が従業員を解雇する場合には、上記の(ⅰ)(ⅱ)の要件を満たしていなければなりません。
また、法律上、治療や療養のために仕事を休む必要がある期間及びその後30日間は、従業員を解雇することができないとされていますが(労働基準法19条1項)、この場合も、30日以上たてば解雇できるわけではなく、上記の(ⅰ)(ⅱ)の要件を満たす必要があります。
つまり、治療後の解雇の場合も同様に、上記の(ⅰ)(ⅱ)の要件を満たしていなければ、解雇は無効となります。
なお、うつ病は精神的な病であり、従業員が業務によってうつ病になったと主張した場合でも、直ちに業務起因性が認められるものではありません。
従業員が、業務によってうつ病を発症したと主張しているケースでも、実際には、うつ病との因果関係を認めなかった裁判例もあります(東京地裁平成29年3月31日判決)。
【東京地裁平成29年3月31日判決】
「原告については、精神疾患にり患し、それによって就業できない状況にあった事実の存在自体認め難い上、仮にその事実を認めるとしても、業務による強度の心理的負荷によって同疾患を発症させた事実を認めることができず、業務上の疾病に当たるということはできない。」
と判示し、原告のうつ病は、業務によるものではないとされ、労働基準法19条の適用はないとされました。
一方で、うつ病に業務起因性が認められてしまうと、法律上の要件を満たさない場合は、解雇無効と判断され、未払い賃金を支払わなければなりません。それだけでなく、従業員のうつ病に対する会社の安全配慮義務違反まで認められてしまうと、慰謝料等も認められ、未払い賃金と合わせると数千万円にも及ぶ支払いを命じられることもあります。
【東芝事件(最二小判平成26年3月24日・労判1094号22頁)】
「上告人は、本件うつ病の発症以前の数か月において、前記のとおりの時間外労働を行っており、しばしば休日や深夜の勤務を余儀なくされていたところ、その間、当時世界最大サイズの液晶画面の製造ラインを短期間で立ち上げることを内容とする本件プロジェクトの一工程において初めてプロジェクトのリーダーになるという相応の精神的負荷を伴う職責を担う中で、業務の期限や日程を更に短縮されて業務の日程や内容につき上司から厳しい督促や指示を受ける一方で助言や援助を受けられず、上記工程の担当者を理由の説明なく減員された上、過去に経験のない異種製品の開発業務や技術支障問題の対策業務を新たに命ぜられるなどして負担を大幅に加重されたものであって、これらの一連の経緯や状況等に鑑みると、上告人の業務の負担は相当過重なものであったといえる。(中略)
上記の過重な業務が続く中で、上告人は、平成13年3月及び4月の時間外超過者健康診断において自覚症状として頭痛、めまい、不眠等を申告し、同年5月頃から、同僚から見ても体調が悪い様子で仕事を円滑に行えるようには見えず、同月下旬以降は、頭痛等の体調不良が原因であることを上司に伝えた上で1週間以上を含む相当の日数の欠勤を繰り返して予定されていた重要な会議を欠席し、その前後には上司に対してそれまでしたことのない業務の軽減の申出を行い、従業員の健康管理等につき被上告人に勧告し得る産業医に対しても上記欠勤の事実等を伝え、同年6月の定期健康診断の問診でもいつもより気が重くて憂鬱になる等の多数の項目の症状を申告するなどしていたものである。
このように、上記の過重な業務が続く中で、上告人は、上記のとおり体調が不良であることを被上告人に伝えて相当の日数の欠勤を繰り返し、業務の軽減の申出をするなどしていたものであるから、被上告人としては、そのような状態が過重な業務によって生じていることを認識し得る状況にあり、その状態の悪化を防ぐために上告人の業務の軽減をするなどの措置を執ることは可能であったというべきである。」
と判示し、客観的な事実を考慮すると、うつ病が加重な業務によるものであると認められるので、法律上の要件を満たしていないうつ病による解雇は無効であり、うつ病悪化を防ぐための措置をとらなかった会社に対し、安全配慮義務違反を認めました。
そして、東京高等裁判所に事件は差し戻され、結果として会社に対し数千万円の支払いが命じられました(東京高裁平成28年8月31日判決)。
5.弁護士相談の必要性
以上に見てきたとおり、業務によってうつ病になった従業員を解雇すると、場合によっては莫大な支払いを命じられる恐れがあります。
そこで、うつ病の従業員を解雇する場合、業務起因性の有無や解雇の可否について事前に弁護士に相談することをお薦めいたします。
また、解雇後であっても、弁護士が間に入ることにより、従業員との間で裁判になる前に和解が成立したりすることもありますので、うつ病の従業員の解雇に関してトラブルになった場合は、当事務所にご相談ください。


坂本 恵子
弁護士
【東芝事件(最二小判平成26年3月24日・労判1094号22頁)】
過重な業務が続くなかで、労働者が、体調不良を使用者に伝えて相当の日数の欠勤を繰り返し、業務の軽減の申出をするなどしていた事情においては、使用者としては、そのような状態が過重な業務によって生じていることを認識しうる状況にあり、その状態の悪化を防ぐために当該労働者の業務の軽減をするなどの措置をとることは可能であったというべきであるから、そのような措置を執らずに労働者のうつ病が発症し増悪したことにつき、労働者が使用者に対して自己の精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報を申告しなかったことを重視して過失相殺を認めることは相当ではないとし、会社に安全配慮義務違反を認めたうえで、損害額の減額はできない旨判示しました。