2024.09.17
団体交渉とは?弁護士が分かりやすく費用についても解説!



我妻 耕平
弁護士1 団体交渉とは?
団体交渉とは、労働者が集団となり、使用者との間で労働条件などに関する事項を交渉することをいいます。
これは、憲法第28条及び労働組合法第6条において労働者に保障されている権利です。
そして、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することは、法律で禁止されている不当労働行為にあたるため(労働組合法第7条第2号)、使用者が団体交渉を拒否することは原則としてできません。
(1)団体交渉の“団体”ってどんなものがあるの?
(ア)労働組合
団体交渉の団体の代表的なものとしては労働組合があげられます。
労働組合とは、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」(労働組合法第2条本文)をいいます。
労働者と使用者では、互いに私人でありながら、一般的に使用者は会社(法人)であることが多いため、どうしてもパワーバランスが使用者側に傾きがちです。そのようなアンバランスな関係で労働者が使用者に労働条件の改善を訴えても中々労働者の声は実現されません。そこで、労働者同士が労働条件や労働環境の改善維持を目的のもとで集まり組織されたのが労働組合です。
では、労働組合はどのような要件で成立するのでしょうか。
先程あげた労働組合法第2条から求められている労働組合の要件は以下の3つとなります。
労働組合には、同一会社内で組織された労働組合(単位組合)と、異なった会社の労働者同士で組織されたユニオンがあります。
なお、後者については規模も組織も千差万別です。労働者保護のために真摯に活動しているユニオンも存在しますし、例えば実質一人しか在籍していのに対外的に組織があるように偽装した上でユニオンを名乗り、企業に無理難題を突き付けたり、不利益を与える事を示唆した上で高額の解決金や違約金を支払わせようとするなど、およそ労働者の権利の適正な代弁者とは言えないようなユニオンも存在します。
(イ)労働組合以外の労働者の団体
労働組合に該当しない場合でも、代表者の選任方法や交渉に関する事項などが定められている場合、憲法第28条の団体交渉権が認められています。
ただし、労働組合以外の団体の場合には、労働組合法第7条が定める不当労働行為救済制度の保護が受けられないため、使用者は労働組合以外の団体から団体交渉を拒否できると解されています。
(2)団体交渉の申し入れは拒否できるの?
(ア)労働組合法による定め
労働組合法7条は使用者に対して不当労働行為を禁じており、同条二号には「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。」と定められています。
そのため、労働組合から団体交渉申入れ書の提出があった場合、使用者はその受取を拒否したり無視したりすることは原則的にできません。
(イ)「正当な理由」なく拒否するとどうなるのか?
使用者が「正当な理由」なく労働組合からの団体交渉申入れを拒否したり無視したりした場合、労働組合は、使用者の住所または労働組合の事務所の住所がある都道府県の 労働委員会に救済を申立てることができます。
労働者は労働組合法第27条1項に基づき都道府県または厚労省の労働委員会に救済申立をすることができ、その後、審査が熟した際には、委員会は職権で労働委員会に救済命令ができます。そして、救済命令の確定後も使用者が履行しない場合、労働組合法第28条の罰則があります。また、不法行為として民法第709条に基づき損害賠償請求をされるケースも存在します。
(ウ)団体交渉を拒否できる「正当な理由」とは
①合意の成立見込みがないケース
山形大学不当労働行為救済命令取消請求事件(最高裁第二小法廷令和4年3月18日)は、合意の成立見込みがない場合でも、「使用者が労働組合に対する誠実交渉義務を尽くしていないときは、その後誠実に団体交渉に応ずるに至れば、労働組合は当該団体交渉に関して使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができるようになる」と判断しており、使用者に対して、誠実交渉義務を認めています。
すなわち、合意の成立の見込みがないことをもって使用者が交渉に応じなくてもいいというわけではないことを示しており、使用者は労働組合に対して交渉事項につき十分な説明や資料の提示をする必要があります。
どの程度の行為をすると誠実交渉義務を果たしたと認められるかについては、事例によって慎重な判断が必要となります。
②使用者が破産申立したケース
誠光社事件(大阪地裁判決平成9年10月29日)では、「会社は、団体交渉を拒否し又はこれに応じないことにつき正当な理由がない限り、労働組合に対する団体交渉応諾の義務を免れないものと解するのが相当である。なんとなれば、破産原因を有する会社が破産申立をしたとしても、それによって法人格が直ちに消滅するものではなく、破産宣告後も、強制和議(破産法二九〇条以下)又は同意廃止(同法三四七条、三四八条)によって会社が存続することもあり得るから、会社は、依然として集団的労使関係から離脱することはないからである。」と判断しています。
そのため、会社が破産申立てをした場合も、団体交渉を拒否またはこれに応じない正当な理由がない限り、誠実交渉義務違反となります。
③派遣先事業主を相手に団体交渉をするケース
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)の原則的な枠組みとしては、派遣先事業主は原則として労働組合法7条の使用者には当たりませんが、H交通社事件(東京地裁判決平成25年12月5日)では、例外的に労働派遣法の基本的な派遣先事業主が派遣労働者の基本的労働条件を現実かつ具体的に支配・決定していたり、派遣先事業主が、使用者とみなされ労基法等に責任を負うとされる労働時間、休憩、休日等の規定に違反し、かつ部分的とはいえ雇用主と同視できる程度に派遣労働者の基本的な労働条件を現実的かつ具体的に支配、決定している場合には、決定されている労働条件等に限り、派遣先事業主も不当労働行為が禁止される使用者に該当すると判断しました。
そのため、派遣先事業主は、労働時間等に関する事項について、団体交渉義務を負います。
④労働組合の組合員から脅迫などされたケース
ダン生コン事件(大阪高裁判決平成27年4月27日)では、労働組合の組合員から使用者を脅迫したり会社に押しかけ帰らないなどしたりして警察騒ぎになったところ、使用者が労働組合に対し、「これまでの謝罪及び二度と同様のことはしないという約束をしなければ団体交渉には応じない」という話をしたことについて、労働組合法第7条第2号の「正当な理由」にあたり、誠実交渉義務違反にはならないと判断しました。
2 団体交渉に応じる際に注意しなければならない点とは?
使用者側において団体交渉に臨む際に実務上注意しなければならない点は主に6つあります。
(1)労働組合の上部団体の構成員の出席を拒めないこと
労働組合法第6条では「労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する」と定められています。そのため、労働組合から委任を受けた上部団体(同じ業種の会社にある労働組合が集まってつくる産業別組織など)の構成員には団体交渉を行う権限があるため、使用者側が「労働組合の人でないのであれば団体交渉に出席することを認めない」とすることはできません。
(2)組合員を、組合に加入していることや団体交渉に参加したことで不利益に取り扱ってはならないこと
労働組合法第7条1号は「労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」と定めています。
つまり、使用者に対して、労働者が労働組合を結成したり加入したりすることを理由に、その労働者を解雇するなどの不利益な取扱いをすることを禁止されているのです。
このこともあり、使用者が、労働組合から団体交渉の申入れをされた際に、従業員の誰が組合員なのか等を特定するようなことをしてしまうと、単に通常業務の中で合理的な理由で労働者に対して業務上の注意などをした場合でも、「自分が組合員だから不利益に扱われた」と主張されたり、新たなトラブルが発生してしまうおそれがあります。
(3)団体交渉の時間・開催場所・開催費用の負担に注意する
労働者には労働契約に基づく職務専念義務があるため、原則的には就労時間中に労働組合の活動を行うことはできません。そのため、労働者が使用者に対して、就労時間の団体交渉を申し入れても使用者はそれを拒否することができます。
しかし、使用者が就労時間中に団体交渉を許容することは可能です。一方で、就労時間中の団体交渉は、その間の賃金などについて新たなトラブルが発生してしまうおそれもあります。そのため、団体交渉は就労時間外に話し合ったほうが良いでしょう。
また、団体交渉はその性質上、両者の主張に折り合いがつかず、交渉が決裂する場合もありますが、この際に組合側が使用者側への妥協を求めていつまでも退席しないという事態も起こりえます。そのため、団体交渉を行う場所は、会社や労働組合の事務所ではなく、公共の会議室などを利用することで、交渉成立しなかった場合でも制限時間が過ぎた後の不退去や軟禁といったトラブルが起こりにくくなります。
次に、団体交渉にかかる費用については特に規定がなく、実務上労働組合か会社のいずれが負担しても問題ありません。しかし、労働組合に費用を負担させようとして労働組合側に場所を決めさせると、結局労働組合の事務所などで話し合うことになるなど、上記のような場所や運営を巡るトラブルを防ぐことが難しくなります。そのため、団体交渉にかかる費用は原則として使用者側で負担して交渉を主導した方が結果的にトラブルを防止できるでしょう。
(4)団体交渉に出席するメンバーの選択、人数に注意する
使用者で決定・処分可能な事項は全て義務的団体交渉事項にあたりますが、その内容には、賃料や労働時間、解雇基準などの労働条件の改善請求だけではなく、ハラスメント・解雇無効・未払い賃金請求・労災問題など特にデリケートに対応しなければならないものも多くあります。そのため、複数人で出席する場合には、発言に矛盾が生じないよう注意が必要です。
また、団体交渉は和解した場合、その内容を労働協約として作成し効力が発生するため、交渉やその内容に関して決定権のある立場、あるいは権限をもったメンバーが出席する必要があります。
(5)団体交渉中は議事録や録音を残し、労働協約以外の書類に署名押印しない
団体交渉中に「言った、言わない」の水掛け論を防ぐため、使用者側は団体交渉中の議事録や録音をとるようにしましょう。そして、その際には、念のため録音等を残すことについて労働組合側に事前に連絡をしましょう。
また、労働組合側が作成した議事録に対して署名押印を求められても応じないようにしましょう。
労働組合法第14条では「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる。」と定められていることから、労働協約の成立には両当事者の署名押印が必要となります。また、労働協約の期間は最長3年です(労働組合法第15条)。
そのため、団体交渉の申入れから終了までの間に様々な書類が提出されることがありますが、使用者は労働協約以外の書類について無暗に署名押印しないように気を付けましょう。
(6)労働組合の要求に対しては誠実交渉義務を果たして答える
労働組合法第7条第2号は「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むこと。」を禁じており、使用者に誠実交渉義務を定めています。
しかし、団体交渉の中で取り上げられるもの全てについて、誠実交渉義務をもって行わなければならないわけでなく、使用者に処分可能な事項である義務的団体交渉事項以外の件については、使用者が交渉に応じる義務はありません。
また、誠実交渉義務は団体交渉においても使用者が誠実に交渉に応じることを使用者に義務づけるものですが、労働組合の要求にそのまま応じることが誠実交渉義務を果たすということではなく、あくまで、労働組合の要求に対応して、使用者の主張及びその論拠を示し、見解の対立の解消を目指す義務がこの誠実交渉義務の内実であると解されています。
誠実交渉義務に関する裁判例は多くありますが、近時参考になる裁判例が東京地裁から出されました(東京地裁令和元年(行ウ)第444号長澤運輸不当労働行為救済命令取消請求事件)ので、以下で紹介させていただきます。
大変長いのですが、下線部が本裁判所の立てた判断基準の部分になりますので、参考にしてみてください。
誠実交渉義務の裁判例)
長澤運輸不当労働行為救済命令取消請求事件とは
【事件概要 】
1 本件は、会社が、定年退職後再雇用者の労働条件や賃上げ等を議題とする組合との団体交渉(本件団交)において、代表取締役を出席させず、資料を提示して説明しなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 東京都労委は、本件団交における会社の対応が労組法7条2号に該当する不当労働行為であるとして、会社に対し、①団体交渉に代表取締役が出席し、又は代表取締役が出席できない場合はその合理的な理由を説明して実質的な権限を十分に付与した者を出席させた上で、自らの主張の裏付けとなる資料を提示して具体的な説明を行うなどして誠実に応じること、②文書交付、③履行報告を命じたところ、会社は、これを不服として、再審査を申し立てたが、中労委は、主文を変更し、その余の請求を棄却した。
3 会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
【判決主文】
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
【判決の要旨】
1 会社が負う誠実交渉義務の内容について
労組法7条2号が「使用者が団体交渉をすることを正当な理由なく拒むこと」を不当労働行為と定めたのは、使用者と労働者の代表者又は労働組合とが、対等に労働条件等について交渉することを確保するためであるから、同号のいう団体交渉拒否には、使用者が、正当な理由なく団体交渉を行うことそれ自体を拒否することだけでなく、形の上では団体交渉に応じながら、不誠実な態度を取り、対等に労働条件等について交渉するという団体交渉の実を備えない場合も含まれると解される。したがって、使用者は、団体交渉に応じる義務とともに、団体交渉において誠実に交渉に当たる義務を負う。そして、誠実交渉義務は、労働組合の要求に対して合意や譲歩を行う義務ではなく、譲歩ができない場合であっても、交渉事項に関する労働組合の要求に対応して、使用者の主張及びその論拠を示し、見解の対立の解消を目指す義務であると解される。
また、本件では、会社と組合は、平成26年11月12日、別件の不当労働行為救済申立事件において、都労委の関与により、 「会社は、組合に対して、労働条件につき、会社の代表者ないしこれに準ずる権限のある者を出席させて、労使の合意が図れるように、交渉事項につき必要な経営に関する資料を提出するなどして、誠実に団体交渉を行うことを約束する。」との和解条項を含む和解協定を締結したのであるから、会社は、上記の一般的な誠実交渉義務に加えて、和解条項に基づき、会社の代表者又はこれに準ずる権限のある者を団体交渉に出席させて、交渉事項につき必要な経営に関する資料を提出するなどして、誠実に団体交渉を行う義務をも負っていた。
2 団体交渉の出席者について
使用者が負う誠実交渉義務によれば、交渉担当者が、労働組合の要求に対応して、使用者側の見解の根拠を具体的に示すなど する権限を有していれば足りるから、団体交渉における使用者側の出席者は、必ずしも使用者の代表者である必要はなく、交渉担 当者が実質的な交渉権限を有していれば、最終的な決定をし、労働協約を妥結する権限を有している必要まではないと解される。 そして、交渉担当者が実質的な交渉権限を有していたか否かは、形式的な交渉権限の有無だけではなく、実際の団体交渉における 具体的な言動を踏まえて検討すべきである。
本件団交における会社側出席者であるB3所長及びB2弁護士の具体的な対応をみると、定年後再雇用者の労働条件見直しを止めた理由や、経営資料を提示しない理由について、具体的な理由を挙げて会社の判断を説明することなく、会社の中でもいろいろ あるなどの発言を何度も繰り返すなど、具体的な理由や中身に触れることのないまま、即答を避ける態度に終始し、会社の判断で ある旨や説明するつもりがない旨の回答を繰り返したことに加え、B3所長とB2弁護士とで回答内容が異なることがあったこと も考慮すると、会社において、団体交渉前に十分な検討を行った上で、B3所長やB2弁護士に対し、具体的な理由の説明や回答 をすることを可能とする実質的な交渉権限を付与していたと認めることは困難である。また、本件団交には毎回同じ出席者が参加 していたのであるから、B3所長及びB2弁護士に実質的な交渉権限が与えられていたのであれば、団体交渉の場で次回の交渉期 日を調整、決定することは、当然可能であったと解されるにもかかわらず、B3所長は、交渉の場で次回の交渉期日を決定しない 理由について、必要ないと思っていると述べるにとどまり、B2弁護士も、ここでは決めない、決めないのが方針であって理由は ないなどと述べるなど、両者との次回期日を調整、決定することについて、具体的な理由を説明することなく頑なに拒否し続けた経緯も、B3所長やB2弁護士が実質的交渉権限を有していなかったことを示すものといえる。以上によれば、本件団交における 会社の対応は、会社の代表者ないしこれに準ずる権限のある者を出席させるという和解条項の内容に反し、不誠実な団体交渉であったというべきである。
3 資料の提示について
組合が、会社の経営状況を把握した上で労働条件向上の余地を検討し、協議するために経営資料の提出を求めていたのに対し、会社は、資料の提出の必要がないと考える理由を 具体的に説明することなく、世間水準であるなどと抽象的に述べるのみで、資料の提示を一切行わなかったところ、組合は、世間 水準について、会社と同じ一次下請の同業他社と比較しなければ意味がない、通勤費を含む年収では世間水準との比較はできない 旨主張し、会社が世間水準であると答えただけでは団体交渉における議論が進展しない状況であった。そうすると、経営資料の提出を行わず、その理由を世間水準である旨を抽象的に述べるのみであった会社の対応は、自己の主張の論拠を組合に具体的に説明し、見解の対立の解消に向けた努力をしていたものと評価することはできない。そして、和解協定が、定年後再雇用者の労働条件 に関する団体交渉における会社の対応が不誠実であるとして申し立てられた救済申立てに関して締結されたものであることも踏まえると、会社の上記対応は、交渉事項につき必要な経営に関する資料を提出するなどして、誠実に団体交渉を行うことを約束する との和解条項に反する不誠実なものというべきである。
4 会社の請求についての判断
以上によれば、本件団交の出席者の交渉権限及び経営資料の不提示について、労組法7条2号の不誠実団体交渉に当たると判断 して救済を命じた中労委命令は正当であり、会社の請求は理由がないから棄却する。
(以上 厚生労働省の労働委員会裁判例データベースから引用)
3 団体交渉における弁護士の役割や相談・依頼をするメリット
団体交渉の具体的な流れに沿って、弁護士に相談することのメリットや弁護士の果たす役割や対応をご紹介します。
(1)交渉の窓口になり、業務への支障を最低限に抑えつつ、法理論や実務を踏まえた適切な対応が可能になる
多くの場合、団体交渉の申入れは何の前触れもなく行われることがありますが、使用者が正当な理由なく団体交渉やその申入れを拒むことは不当労働行為にあたり禁止されています(労働組合法第7条第2号)。不当労働行為をした場合、労働委員会から救済命令が出されるケースもあります。そのため、使用者はこのような突然の申入れに対して、動揺してしまい咄嗟に受取を拒否してしまうなど、初動を誤ると不当労働行為に該当してしまう恐れがあります。
しかし、弁護士が団体交渉申入れの窓口になることで、労働組合の対応やこれまでの交渉の経緯などを鑑み、不当労働行為にあたらない「正当な理由」があるか否かを見極めつつ適切な対応が可能です。
(2)団体交渉前の事前折衝(事前交渉) における弁護士の役割
団体交渉を開催するための予備折衝として、労働組合と使用者との間では、日時や開催場所などについて話し合う必要があります。
(ア)団体交渉の日時
労働者には労働契約に基づく職務専念義務があるため、原則的には就労時間中に労働組合の活動を行うことはできませんが、使用者が就労時間中に団体交渉を許容することは可能です。しかし、就労時間中に行われた団体交渉中の賃金の有無や、その間の業務への支障など、新たなトラブルが発生する可能性はあります。
この点、事前交渉の弁護士は、就労時間中に団体交渉を求めてきた労働組合に対しては、就労時間外に行うことを交渉したり、時間制限を何時間にするか交渉したり、就労時間内に行う場合でもその間の賃金等についての交渉をしたりするなど、さまざまな点に留意しながら団体交渉の時間について労働組合と協議を行う事が可能です。
(イ)団体交渉の開催場所と費用
団体交渉を行う場所を会社や労働組合の事務所にしてしまうと、時間制限が過ぎた後も、労働組合の要求を受け入れるまで団体交渉を終わらせてもらえない、というトラブルが発生してしまうことがあります。
また、開催費用についても、労働組合側が負担する代わりに開催日時や開催場所が労働組合にとって有利となるような要求があるなど、新たなトラブルが発生する可能性があります。
そのため、このような内容についても、弁護士が窓口になることで、交渉中のトラブルを回避するためにベストな選択を行うことができます。
(ウ)団体交渉に向けた準備作業における弁護士の役割
団体交渉を長期化させないために、労働組合から提出された団体交渉申入書や要求書の内容を精査し、当日の問答などを想定し準備する必要があります。また、それに合わせて、関連書類の準備なども必要となります。
弁護士が団体交渉の準備を行うことで、使用者の誠実交渉義務の範疇にない要求を取り上げることなく団体交渉を開催することができます。また、会社側の事情をヒアリング、斟酌しながら労働組合からの要求を精査するため、法的妥当性のみならず、会社経営の観点も意識しながら団体交渉の準備を行うことが可能です。
(エ)団体交渉当日における弁護士の役割
団体交渉について使用者と弁護士が打合せをする際、弁護士は使用者から、現在の経営状況、経営方針、今後の展望など経営に関する事情についてもヒアリングすることがあります。そのため、団体交渉の中で、誠実交渉義務(労働組合法第7条第2号)に違反しない等、法律上の問題がないかという一義的な点だけではなく、会社の事情や利益など個別具体的に考慮した交渉を行うことが可能です。
また、会社から複数人が出席することも可能ですが、弁護士に一任して交渉することで、交渉中の発言の矛盾を防止できます。
(オ)団体交渉の終了時点における弁護士の役割
①交渉成立の場合
団体交渉が和解で終結した場合、労働協約を作成します。労働協約は署名捺印する ことで効力が発生し、最大3年間有効ですが(労働組合法第15条)、労働協約で定められる内容は従業員の労働条件など経営判断に関わる事項も多いため、労働協約を結ぶ際には慎重に判断する必要があります。
弁護士に依頼をすることで、会社の利益を守りながら法的な視点も交えて労働協約の最終チェックを行うことが可能です。
②交渉不成立の場合
団体交渉が決裂した場合、労働者はⅰビラ撒きや街宣を行う、ⅱ業務をストライキする、ⅲ交渉誠実義務違反などの不当労働行為を理由に労働委員会に救済申立てを行う、ⅳ労働審判を申し立てる、ⅴ訴訟を起こすなどの行動に移す可能性があります。
これらの行動は会社にとってダメージが大きいため、使用者にとっては迅速に対応しなければいけません。
しかし、団体交渉が始まる前に、交渉が決裂した場合の対応について弁護士と対策や対応を考えておくことで、会社へのダメージを最小限にとどめることが可能です。
4 団体交渉に関して弁護士に依頼する場合の費用の相場
スポット契約の場合、争点や規模や人数にもよりますが、着手金として30万円程度~、報酬金も30万円~という事で、最低60万円程度はかかると思っておいた方が良いかもしれません。労働者が複数名であったり、協議する争点や要求額が高額に及ぶ場合にはそれに応じて弁護士報酬も高額になる場合がありますので、あくまで目安としてお考え下さい。
なお、相手からの請求金額や経済的利益の多い少ないによって弁護士報酬が変動するタイプの契約の場合、旧日本弁護士連合会の基準等に準拠して、得られた経済的利益に対するパーセンテージで報酬金が算定されることもありますし、純粋にタイムチャージ方式(1時間5万円等)で報酬を計算するところもあります。
団体交渉については色々な着地点が想定される上、関わる人数も規模も千差万別です。弁護士報酬についても既に各法律事務所が自由に決めて良いという制度に移行していますので、ご依頼を検討される場合は、各事務所にご相談の上で、報酬額や算出方法については良く説明をしていただき、納得された上でご依頼をされることをお勧めいたします。
5 団体交渉のご相談、依頼は弁護士へ
以上見て来たように、団体交渉においてはいくつもの法的に考慮しなければならない事項や制約があります。
また団体交渉特有のテクニックも存在するところ、安直に感情任せに対応されてしまうと、将来労働審判や裁判に移行した際に取り返しがつかない判断がされてしまう恐れもあります。
このため、団体交渉を経験したことがない、あるいは対応したことがあっても余程法的な知見や経験があって習熟しているという場合でない限りは、少なくとも弁護士に相談した上で対応の方向性や交渉内容を決めていくことをお勧めします。
虎ノ門法律経済事務所では、前身の事務所を含めて1972年の創業以来、使用者側の立場で多数の労働問題を解決してきた実績があり、豊富な経験と専門知識を活かした解決策を提供してきました。日本経済新聞でも2024年度の「企業側労働法務として頼れる弁護士5選」に選出されております。
また、法人全体で合計300社を超える法人と顧問契約を締結しており、経営者の方からの実践的な労務相談にも対応しております。解雇の有効性や残業代の未払い、ハラスメントクレームに対する対多人数の交渉を始めとして、多数の対応実績があります。もし団体交渉でお困りの場合にはお気軽にご相談下さい。


我妻 耕平
弁護士
ⅰ 労働者が主体となっていること
ⅱ 労働者が自主的となっていること
・役員、雇い入れ解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者や、使用者の利益を代表する者の参加を許すもの(同条第一号)
・団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助をうけるもの(同条第二号)
・共済事業その他福利事業のみを目的とするもの(同条第三号)
・主として政治運動又は社会運動を目的とするもの(同条第四号)
ⅲ 労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを組織の主たる目的としていること
加えて、労働法第5条本文では、
「労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第二条及び第二項の規定に適合することを立証しなければ、この法律に規定する手続に参与する資格を有せず、且つ、この法律に規定する救済を与えられない。」と定めていることから、
ⅳ 組合規約が法律に適合していること
が、労働組合の要件として求められており、これら4つの要件をクリアしなければ、労働組合としては認められません。