2025.09.10
熱中症対策、いよいよ義務化へ! 〜労働安全衛生規則改正で事業者が果たすべき責任とは〜

はじめに
近年、猛暑の影響で職場での熱中症による死傷災害が相次いでいます。その数は2014年から2023年の10年間で約3倍に増え、経営者にとっては人命だけでなく企業の信用問題にも直結する大きなリスクとなりました。
こうした熱中症死傷災害の増加を受け、労働安全衛生規則が改正、2025年(令和7年)6月1日に施行されました。
これまでも熱中症災害の防止は重要視されていましたが、この改正により、職場における熱中症対策が強化され、「必ず実施しなければならない事項」が定められたことは大きな変化となりました。
事業者が講じなければいけない措置とは?
では、事業者は具体的にどのような対応をしなければならないのでしょうか。今回の改正では、以下のような措置が義務づけられています。
① 熱中症の兆候を早期に発見・共有する体制づくり
熱中症を引き起こすおそれのある作業を行う場合、以下の体制を整え、関係する作業者に周知しなければなりません。
ここで対象となる「熱中症を引き起こすおそれのある作業」とは、暑さの指数であるWBGT値(Wet Bulb Globe Temperature、湿球黒球温度)が28度以上又は、気温31度以上の環境下で連続1時間以上又は1日4時間以上を超えて実施が見込まれる作業となります。そのため、屋外作業はもちろん、工場や厨房、倉庫作業なども該当する場合があり、「うちの職場は関係ない」と思い込まず、慎重に判断することが大切です。
WBGTについては厚労省が作成している「職場のあんぜんサイト」に説明がありますので、参考にしてみてください。
その他役に立つ資料も多く掲載されています。
こうした作業を行う場合に、
・熱中症の自覚症状がある作業者
・熱中症のおそれがある作業者を見つけた者
これらの人が、速やかに異変を報告できるようにするために、事業場ごとに連絡先や担当者をあらかじめ定めることが求められています。
② 熱中症の重篤化を防ぐための具体的対応の整備
さらに、熱中症が疑われる場合に備え、事業者は次のような対応について内容と手順を事前に定め、作業者に周知することが義務づけられています。
・作業者を作業から離脱させること
・作業者の身体を冷却すること
・必要に応じて、医師の診察や処置を受けさせること
・事業場の緊急連絡網や緊急搬送先の連絡先・所在地などの情報を整理・共有すること
コスト以上に失うリスクを避けるために熱中症災害防止に向けて経営者がすべきこと
上記で紹介した措置を講じるためには、確かにコストがかかることもあります。
これは、職場における熱中症対策の仕組みを作る上での人材的コストや時間的コストも含めれば、単なる金銭的なコストにとどまるようなことでもありません。
しかし、熱中症は初期対応が遅れると、命に関わる深刻な結果を招きます。
今回の改正では、単に「法令を守る」だけではなく、従業員の健康と安全を経営の優先課題として捉えることが重要であるといえます。
そのため、熱中症災害が発生すると、大切な従業員を失い、さらに企業イメージも低下してしまうおそれがあります。
会社にとって、こうしたリスクは熱中症対策でかかるコストよりも大きなダメージにつながります。自社の現場を守るため、そして従業員に「安心して働ける職場だ」と思ってもらうために、熱中症対策の整備を進めていきましょう。