2026.05.19
東京高等裁判所が中途採用の内定取消しを有効と認定

1. 事案の概要
2024年12月17日、東京高等裁判所は、経歴詐称による内定取り消しを認める判決を出しました。
男性は、コンサルティング会社の中途採用の求人にエントリーして採用内定を受けていたところ、その後の経歴調査により虚偽の経歴の申告が判明したなどとして内定を取り消されました。この件につき、同内定取消しは無効であると主張し、雇用契約上の地位確認、未払賃金、損害賠償などを請求した事案です。
採用内定の実態は多様であるため法的に一義的ではありませんが、一般的には、始期付解約権留保付労働契約(勤務開始日が決まっていて、勤務開始日までの間に内定取消事由が発生した場合には会社が内定取消できる契約)を指すことが多いと考えられています。
今回の事件でも、内定決定後に、会社から内定者に送られたオファーレターと雇用契約書に、内定者がサインをして会社に送り返すというやりとりを踏まえ、当事者間では始期付解約権留保付労働契約が成立したとされました。
2. 解約権行使が認められる場合とは
しかし、解約権(企業側が雇用契約を解除する権利)の行使(内定取消)は、無制限に認められているわけではありません。
今回の判決でも踏襲されている大日本印刷事件(最高裁昭和52年(オ)第94号同54年7月20日第二小法廷判決)では、解約権の行使について、次の基準を示しています。
大日本印刷事件で示された解約権行使の基準
「上記解約権の行使は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られるものと解するのが相当である」
今回の高裁においても、解約権の行使は、通常知り得なかった事実が採用内定後に出てきて、内定取消が客観的に合理的で社会通念上妥当と言える場合に限るとしました。
そして、今回の事件の雇用契約書には、内定取消事由として、会社の経歴調査に対し全面的な協力をして問題なく完了させ、条件を満たさなかった場合はオファーを撤回する旨が定められていました。
この点について裁判所は、「本件雇用契約書第4条の上記条件を満たさなかった場合の一態様として、当該経歴調査により、内定者が会社に提出する履歴書等の書類に虚偽の記載をし、真実を秘匿して経歴を詐称したことが判明した場合には、これを原因として被告には原告との上記雇用契約を解約し得る旨の解約権が留保されたもの」と解釈しました。
その上で、上記の大日本印刷事件の基準に基づき、応募時の確認事項に照らし、真実を記載すべきなのに重要な職歴を記載せず虚偽申告した点を重視し背信性は高いと判断。虚偽の申告を行った動機や秘匿した事項、秘匿の方法や態様などを考慮すれば、会社の運営に当たり円滑な相互信頼関係を維持できる性格を欠き、企業内にとどめおくことができないほどの不正義性が認められるため、本件内定取消しは、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるとして、内定取消しを有効と結論づけています。

3. まとめ
採用内定は個別の事案によって異なり、解約権の解釈についてもそれぞれの事案に即した解釈となりうるため、今回の判決がそのまま今後の裁判実務で確定したというわけではありません。しかし、会社ができる紛争リスク回避のための対策として、今回の事件は会社にとって参考になる内容といえます。
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