2026.08.31
県委託事業に従事していた歯科衛生士、「労働者」と認定

1. 事案の概要
令和7年10月16日、千葉地方裁判所では、県委託事業に従事していた歯科衛生士5人(以下「原告ら」とする。)を労働契約法上の「労働者」であるとして、被告歯科医師会(以下「被告」とする。)に対し未払賃金支払いを命じました。
本件では、原告らは、千葉県の委託による心身障害児(者)向け巡回歯科健診「ビーバー号事業」で、被告からの募集に応じ、2年ごとに契約を更新しながら長年出動してきました。しかし、新型コロナウイルスのまん延に伴う緊急事態宣言の影響により、ビーバー号事業は一時中断後に規模を縮小して再開したため、すでに出動日が決まっていた原告らの間で休業補償が話題になりました。これに対し、被告から、被告と原告らを含む歯科衛生士との契約は委託契約である旨の見解が示されたため、原告らは千葉労働基準監督署に相談しました。
千葉労働基準監督署は、被告と原告らを含む歯科衛生士との契約は雇用契約に該当することを前提として就業規則を作成して届け出をするよう是正勧告をしましたが、被告は、同事業に従事する歯科衛生士に対して雇用では無く委託契約書にサインするように求め始め、これに応じない者は、同年4月以降、任期期間中であっても出動割り当てをしない旨を歯科衛生士らに通告しました。
そこで、原告らは被告に対し、
① 原告らと被告との間の契約が有期雇用契約であったことを前提に契約期間満了日までに被告に対して期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたとして、労働契約法18条1項に基づき、期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、
② 被告が原告らに対するビーバー号事業出動の割り当てを一切行わなくなったことが事実上の解雇であるとして、民法536条2項に基づき、令和4年4月分以降の賃金の支払を求めるなどして提訴しました。
2. 裁判の結果
労働新聞の報道によると、千葉地方裁判所は、被告が作成したビーバー号事業の実施要綱には、歯科衛生士については雇用であることを前提に、定年や再雇用についても明記されており、被告が原告らを雇用していると認識していたことは明らかであるとして、被告と原告との間で2年ごとの委託契約ではなく有期雇用契約であると判断しました。
その上で、原告らの従事期間が通算5年を超えていたため、労働契約法の無期転換ルールにより無期雇用に移行していたことも認めました。
3. 雇用契約の判断基準
労働基準法9条における「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業または事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定められています。
具体的な判断基準としては、
・労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか
・報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか
で判断されます。
今回の事件では、募集要項や実施要領で明確にされていた「雇用」「定年」「再雇用」といった文言から、双方が雇用関係を認識していたことや、10年以上にわたって決められた日程・指揮命令のもとで継続的に出動し、月ごとに手当が支払われていたという事情からなされた判断といえます。
また、本件では被告が雇用関係を否定する根拠として雇用契約書を作成していないことを挙げていましたが、雇用契約は口頭の合意で有効に成立するため(民法623条)、被告のこの主張は採用されませんでした。
「うちは業務委託だから大丈夫」「雇用契約書は作っていないから大丈夫」と思っている経営者ほど、今回の判決を期に一度契約内容を見直してみましょう。
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