2024.04.19
学習塾など教育支援業でよくある労務トラブルと知っておくべきポイントについて弁護士が解説!



斉藤 健太郎
弁護士法的トラブルに遭遇し不安に思われている方も、一人で悩まず、まずは相談にいらしてください。実際、法律的には大した問題ではないということもあり、それが分かるだけでも、心が軽くなるはずです。
皆様の不安を少しでも取り除けるよう尽力いたします。
1.教育支援業(学校以外)とは?
(1)教育支援業の定義
教育・学習支援業は、日本標準産業分類において、「学校教育を行う事業所」、「学校教育の支援活動を行う事業所」、「学校教育を除く組織的な教育活動を行う事業所」、「学校教育の補習教育を行う事業所」、「教養、技能、技術などを教授する事業所」と定義されています。
(2)教育支援業の具体例
学校以外の支援業としては、子どもたちを対象とした学習塾や音楽教室などだけではなく、進学や資格取得などのキャリアアップを目指す大人向けの各種スクールもこの業種に該当します。
たとえば、学習塾講師、通信教育講師、図書館司書、博物館学芸員、植物園職員、語学学校講師、パソコンスクール講師、デザインスクール講師、スポーツクラブインストラクター、ダンススクール講師、美容専門学校講師、料理教室講師、フラワーアレンジメント講師、マッサージスクール講師、ヨガスクール講師、パーソナルトレーナー、キャリアカウンセラー、学校心理士、教育コンサルタント、教育研究者、教育評論家など、教育支援業には様々な職業があります。
2.教育支援業を取り巻く概況について
(1)教育支援業のトレンドとは?
日本教育新聞の報道等によれば、近年の教育支援業界のトレンドには以下のような特徴があるようです。
① AIの導入: 教育現場において、生成AIを筆頭にAIを活用した学習支援や教育改革の推進
② デジタル教科書の導入: 紙の教科書に代わって、デジタル教科書が導入
③ 地域移行:学校部活動を地域クラブ活動に代替させていく「部活動の地域移行」の推進
④ 情報科目の導入:大学入試共通テストにおいて、情報科目が追加されるなど、情報技術の重要性が向上
⑤ 教育コンサルティング企業の需要増加: 教育機関の運営や改善に関するアドバイスを提供 する教育コンサルティング企業の需要が増加
⑥ 教育の多様化:学習者のニーズに合わせた多様な学び方の需要の増加
(2)激化する業界内競争と労働問題
近年は少子化やオンライン教育の普及により、競争が激化しています。そのため、労働環境の改善やサービスの質向上が求められています。
3.教育支援業の特徴について
教育支援業は、学習に必要な専門的知識や情熱が求められる業界です。
一方で、低賃金をはじめとする労働者に対する低待遇については労働環境の問題が指摘されています。また、アルバイトやパートタイムの労働者が多いことから、非正規雇用ならではの労働トラブルについても対策が必要となります。さらに、サービス利用者との直接的な関わりが多いため、トラブルが発生しやすいのも特徴です。
4.教育支援業で発生しやすい労務トラブル等
教育支援業は、特に講師やスタッフの雇用に関わる労働法規制に注意が必要です。労働時間、休憩時間、休日、残業代、解雇規制など、労働基準法に基づく規制を遵守しなければなりません。
(1)労働時間の適正管理
教育・学習支援業界では、授業の準備や採点など、実際の授業時間以外にも多くの業務が発生します。これらの業務時間を適切に管理し、労働基準法に基づく労働時間を超えないようにすることが求められます。
(ア)「労働時間」とは?
三菱重工業長崎造船所事件(最判平成12年3月9日労判778号11頁)は、労働基準法のいう労働時間について「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうとしています。
そして、これは労働契約・就業規則・労働協約等の定めによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものです。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであり、❶職務遂行と同視しうるような状況の存在、❷使用者の指揮命令や黙認など使用者の関与の存在、この2つが認められれば、「労働時間」として扱われます。
(イ)「労働時間」の具体例
厚生労働省が作成した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」において、下記のような時間は「労働時間」として扱わなければならないとされています。
①使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃 等)を事業場内において行った時間
例えば、学習塾における授業の準備時間、音楽講師が生徒の演奏の録音を聴いて指導内容を決めている時間、フラワーアレンジメント講師が花を仕入れる時間、料理講師がレシピを作成するために試作をしている時間、ジムトレーナーが行うトレーニング器具のメンテナンスの時間などが想定されます
② 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、 労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
例えば、オンライン講座における生徒から質問に対するレスポンスを受け付けている時間などが想定されます
③参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
例えば、マッサージスクール講師として働くための実技研修の時間などが想定されます
(ウ)従業員の労働時間を適切に把握・管理しないことより起こるリスク
先に述べたように、労働時間性の判断は、労働契約・就業規則・労働協約等の定めによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるため、契約書や就業規則に記載があるから大丈夫だと考えるのは危険といえます。
また、適切に労働時間を把握・管理することを怠ると、のちに従業員から未払い賃金請求をされたり、過重労働により従業員の健康が害され安全配慮義務を問われたりするなどの問題が生じるおそれがあります。
労働時間における法的トラブルを回避するためには、タイムカードといった労働時間の記録方法や自己申告制度の導入、労働時間の実態調査など「労働時間」を正確に把握することが重要です。その他、労働時間に関する相談窓口を設置、労働時間の見直しを定期的に行うことで、労働時間の適正な管理が促進を図ることも効果的です。
(2)雇用形態の問題
教育支援業はパートタイムや契約社員といった非正規雇用の形態をとることが多い業界です。これらの雇用形態には、正規雇用と比べて待遇や労働条件が異なる場合もあり、不適切な扱いがないか注意が必要です。
労働契約法3条には、労働契約の原則が定められており、「労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」ことが求められています。このような就業形態による条件の違いを禁じる旨は、2020年4月に施行された「パートタイム・有期雇用労働法」においても定められており(同一労働同一賃金)、労働条件の設定は慎重に行わなければなりません。
非正規雇用における注意点は大きく2つとされています。1つめは、不合理な待遇差の禁止です。職務内容、職務内容・配置の変更の範囲、その他の事情に応じた範囲内で待遇を決定する必要があります。2つめは、差別的取扱いの禁止です。職務内容、配置の変更の範囲が同じ場合、待遇について正社員と同じ取扱いをする必要があります。
法的トラブルを回避するための対策としては、雇用契約書の内容を確認すること、労働時間や休憩時間、賃金、保険などの待遇について、正確な記録を残すこと、労働条件に関する不満や問題がある場合に早期に上司や人事部門に相談できる仕組みを用意しておくこと等があげられます。
(3)教育支援業におけるハラスメントとは
(ア)パワーハラスメント
①教育支援業特有のストレスやプレッシャーについて
教育支援業の現場では業種ごとに競合が過熱していることから、顧客獲得のための営業についても従業員の業務内容に含まれるでしょう。さらに、顧客を獲得すればそれで終わりということもなく、業界の特性上、成績向上や試験合格といった一定の結果が求められる傾向にあります。
これは現在の業界の状況や業種の特性から生じるものであるため、業界で働く従業員にとっては潜在的に存在するストレス・プレッシャーとなります。そして、このようなストレス・プレッシャーが常態化すれば、パワーハラスメントにつながる危険があります。
②使用者に求められる対策
そのため、使用者には従業員のストレス・プレッシャーが解消されるよう、業務についての相談窓口を設置するなどの工夫が求められます。そして、実際にパワーハラスメントが起こってしまった場合には、速やかに対応することも必要です。
③パワーハラスメントとは? その要件や具体例について
まずは、パワーハラスメントの定義を理解する必要があります。
パワーハラスメントとは職場において行われる❶ 優越的な関係を背景とした言動であって、❷ 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、❸ 労働者の就業環境が害されるものであり、❶~❸までの要素を全て満たすものをいいます。
❶優越的な関係を背景とした言動とは?
優越的な関係を背景とした言動とは、上司と部下といった職務上の立場が上の者による発言や、同僚又は部下が業務上必要な知識や経験を豊富に有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難である場合などが該当します。一概に上司部下との関係だけでなく、同僚同士や部下と上司との関係性であっても優越的地位が認められることがあるという点がポイントです。
❷業務上必要かつ相当な範囲を超えたものとは?
業務上必要かつ相当な範囲を超えたものとは業務に関係のないプライベートな話題や、相手の容姿やプライベートな情報や、業務上必要な範囲を超えた、過剰な叱責や、職場での暴力的な言動、性的な言動、人種差別的な言動、暴言や罵倒についての言動などが該当します。
❸労働者の就業環境が害されるものとは?
労働者の就業環境が害されるものとは、「平均的な労働者」が当該言動によって就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響を及ぼした場合を指します。
社会一般の労働者が基準となるので、この労働者は精神的に強いから大丈夫だろうといった反論はできません。
(イ)カスタマーハラスメント
①労災にカスタマーハラスメントが追加
2023年9月に厚生労働省が「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を改正し、いわゆるカスタマーハラスメントも労災の対象となりました。
多くの顧客を相手とする教育支援業でも、この改正は他人事ではありません。
②カスタマーハラスメントとその判断基準について
厚生労働省によると、カスタマーハラスメントとは「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」をいいます。
このことからカスタマーハラスメントの判断基準は、❶ 当該要求の妥当性の有無と、❷ 当該要求を実現するための手段・態様の相当性の有無と、❸ 当該要求の手段・態様により労働者の就業環境が害されるか否か、の三点となります。
(ウ)ハラスメントを放置してしまうリスクとは?
以上のようなハラスメントによって、労働者の心身の健康が害されたりした場合、使用者の安全配慮義務違反が認められるおそれがあります。
また、労災の認定要件を満たし、労災認定された場合、会社のイメージダウンにつながってしまったり、労働基準監督署が行う抜き打ち調査の対象となりやすくなってしまったりなどのリスクがあります。また、場合によっては従業員との間で訴訟問題に発展してしまうおそれもあります。
(4)フリーランスの雇用について
(ア)いわゆる「フリーランス新法」について
「フリーランス・事業者間取引適正化等法」が2023年5月12日に公布されました。フリーランスに業務委託する事業者で、従業員を使用するものは、発注事業者として同法の適用をうける場合があります。
厳密には、労務トラブルではありませんが類似した問題として同法の概要もつかんでおく必要があるでしょう。同法に定められている事業者の義務としては以下のとおりです。
①契約条件の明示:業務委託をする場合、報酬の額、支払期日、業務の内容などの取引条件を明示することが必要です。
②報酬支払期日の設定・期日内の支払:発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内の報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払うことが必要です。
③禁止事項:フリーランスに対して、継続的業務委託をした場合に法律に定める行為をしてはならないことが義務付けられています。
④募集情報の的確表示:広告などにフリーランスの募集に関する情報を掲載する際に、虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはならないことが必要です。
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮:フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければなりません。
⑥ハラスメント対策に係る体制整備:フリーランスに対するハラスメント行為に関する相談対応のための体制整備などの措置を講じることが必要です。
⑦中途解除等の事前予告:継続的業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則として30日前までに予告しなければなりません。
(イ)フリーランスの労働者性について
フリーランスとして働く場合にも、受注者が労基法上の労働者として認められる場合があります。その場合、要件を満たせば労災なども認められることがあるため、発注者である会社はフリーランスだからといって労基法上の配慮をしなくてもいいということではありません。
たとえば、他の発注社からの仕事を受けることが事実上制限されてしまうような専属性の高い働き方をしていたり、受注者の報酬が発注者の指揮監督下における作業時間ベースで決まったりするなど、様々な要件を総合的に判断することで、フリーランスの労働者性が認められることがあります。
(ウ)従業員の問題行動について
また、教育支援業界では従業員が行いうる問題行動として下記のようなものがあげられます。
①契約に関する法
サービス利用者との契約に関しては、契約法の規定に従う必要があります。特に、契約の解除や解約、返金に関する規定は、トラブルの原因となることが多いです。
②個人情報保護に関する法律
教育支援業では、利用者の氏名・生年月日・住所・顔写真などをはじめとする個人情報はもちろん、業種によっては、学校成績や進学先、仕事や健康上の悩みやなども知り得ることになります。
このような個人情報は契約締結の際や業務中に知り得ることも多いため、使用者が適切に対応するだけでは足りず、従業員個々人においても、個人情報保護法の規定に従い、適切な管理と利用が求められます。
そのため、使用者は従業員が適切に個人情報を取り扱えるような体制を整えたり、実際に適切な取り扱いを行っているか管理したりするなどの対応が必要です。
また、従業員によって個人情報が漏洩した場合の対応については、あらかじめ対策を講じることも大切です。
③他の教育支援業との競争において、不正な手段を用いてはならないという規定があり ます。例えば、他社の営業秘密を盗用したり、他社の評判を不当に貶めたりする行為などは禁止されています。
④特定商取引法
また、語学教室、家庭教師、学習塾、については「特定継続的役務提供」として特定商取引法の規制対象となることもあります。
具体的には、契約締結前に当該契約の概要を記載した書面(概要書面)を交付することが義務付けられていたり(法第42条)、誇大広告等が禁止されていたり(法第43条)などの規制があります。特に、契約締結や契約解除の際に事実と異なることや脅迫、困惑することを告げたり、勧誘の際に不都合な事実を告げなかったりするなどの禁止事項(法第44条)は、営業成績を上げるために従業員の独断で行われることもありえるため、定期的なコンプライアンス研修などが重要です。
5.教育支援業界特有の問題への弁護士による法的対応
弁護士が教育支援業界特有の問題についてできる法的対応は以下の通りです。
・労働条件通知書・就業規則などの作成
・非正規雇用・業務委託などの対応
・ハラスメント対策
・問題社員の対応
・労働基準監督の調査立会対応
など
このように、教育支援業は対象となる範囲が広く、特に資格もなく営業できるものも少なくありません。一口に教育支援業といっても、個別に抱える法的問題は多種多様であり、個別具体的な対応が迫られます。しかし、教育支援業界の労務トラブルは、労働基準法やパートタイム労働法などの適用を通じて解決を図ることが可能です。弁護士は、事業者と労働者の間に立って法的なアドバイスを提供し、トラブルの解決に尽力します。
教育支援業で労務トラブルに遭遇した場合、まずは弁護士にご相談ください。弁護士は、法律の専門家として、あなたの権利を守り、最善の解決策を提案します。虎ノ門法律経済事務所では、教育支援業界に精通した弁護士が、あなたの問題解決をサポートします。


斉藤 健太郎
弁護士法的トラブルに遭遇し不安に思われている方も、一人で悩まず、まずは相談にいらしてください。実際、法律的には大した問題ではないということもあり、それが分かるだけでも、心が軽くなるはずです。
皆様の不安を少しでも取り除けるよう尽力いたします。