2024.05.29
モンスター社員(問題社員)とは?特徴や対応方法について事例・裁判例を交えて弁護士が解説!



中尾 武史
弁護士事件を無駄に長引かすことをせず、依頼者に寄り添いつつ基本的に交渉での解決を目指しております。また、裁判案件であっても、スピーディーに解決することを心がけています。
1 モンスター社員(問題社員)とは?
モンスター社員を明確に定義した書籍及び裁判例はありませんが、一般的に「職場で問題を引き起こす、または他の社員に対してネガティブな影響を及ぼす可能性のある社員のことを指します。
これは、職務遂行能力の不足、不適切な行動、態度の問題、または他の社員との人間関係の問題など、さまざまな形(例えば、問題社員は、職場の雰囲気や生産性に悪影響を及ぼす)で現れます。
2 モンスター社員・問題社員の種類
モンスター社員の種類としては以下のようなものがあげられます。
(1)パフォーマンスが低い社員(能力不足)
期待される業績を達成できない、または業務に対する能力やスキルが不足している社員です。
(2)態度が悪い社員(勤務態度不良)
社内のルールやマナーを守らない、または他の社員に対して不適切な態度をとる社員です。泥酔して職場に出勤する、セクハラやパワハラを行うなど、職場で不適切な行動をとる社員もこれにあたります。
(3)健康不安、コミュニケーションが苦手な社員
他の社員とのコミュニケーションがうまくいかず、チームワークを阻害する社員です。
(4)私生活上のトラブルを抱える社員
兼業や副業、私事での違法行為(逮捕等)です。
(5)遅刻や無断欠勤などの勤怠不良の社員
このような相談は、頻繁にあります。
一人の従業員の遅刻や無断欠勤によってほかの従業員の仕事(スケジュール)にも支障が出るにとどまらず、チーム全体の士気や生産性の低下という悪い影響が生じる可能性があります。
(6)SNSなどで会社や上司の誹謗中傷を行う社員
対外的には企業イメージの悪化を招きます。公開された誹謗中傷は、顧客や取引先、求職者など多くの人に影響を与える結果、会社の信頼性が損なわれ、ブランド価値が低下するリスクがあります。
対内的には社員間の信頼関係の損失上司や同僚を公に批判する行為は、職場内の人間関係を壊し、チームワークを損ね、職場で働く他の従業員が不安や不快感を抱き、モチベーションが低下する可能性があります。
当然ながら、ほとんどの会社の就業規則には、文言に差はあれども、会社や上司の信用を損なう行為を禁止する規定がありますので、これらの行いは懲戒処分の対象となるでしょう。
(7)不正行為(横領・背任)を行う社員
不正行為を行ったので企業に損失が生じるのみならず、それが明らかになることで取引先や顧客からの信頼を失う場合があります。
場合によっては、刑事事件になることもあり、職場環境の悪化(従業員の士気低下や組織の連帯感の喪失)は避けられません。
(8)権利主張型(いわゆる上司や経営者に対する逆ハラスメントといわれるものです)
インターネットの普及やハラスメントについての考え方の浸透に伴ってこのタイプのモンスター社員が増えてきました。
自身の行動の適切さを鑑みることなく、労働者の権利のみを殊更に強調・主張し、上司や経営者に対して理不尽な要求を突き付けたり、優遇を求めるタイプの社員です。
ここで経営者側において注意しなければならないのは、従業員が嫌な思いをしたらそれが直ぐにハラスメントという訳ではいという事です。
厚労省が令和2年に出した指針では、例えば「パワーハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。」
としています。
参考:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】
3 モンスター社員対応について放置するリスク
リスクは様々に存在しますが、代表的なものは以下のとおりです。
(1)士気及びパフォーマンスの低下
問題社員の行動が他の社員に悪影響を及ぼし、会社全体の士気やモチベーションを低下させる可能性があります。
場合によっては、他の従業員に対して一緒に退職することや、勤務先に対する損害賠償請求等を促すような事態も想定されます。
また、問題社員の行動が直接的に作業の効率を阻害し、全体の生産性を低下させる可能性があります。
(2)信頼の損失・企業イメージの悪化
問題社員の行動が社内外の信頼を損ない、企業の評価やブランドイメージに影響を及ぼす可能性があります。
SNSへの中傷的、あるいは企業秘密を含んだ内容の投稿や、マスコミに勤務先に対する不満を持ち込み、報道して貰う事を試みるなどのリスクが想定されます。
企業の評判が悪化すると、優秀な人材の採用が難しくなる可能性があります。また、既存の社員が退職するリスクも高まります。さらに、取引先との関係維持が困難になる場合があります。
(3)法的リスク
問題社員の行動が法的な問題を引き起こし、企業が法的なリスクを負う可能性があります。行政罰や刑事罰を企業が受ける事や、労働審判の申立てをされたり、訴訟を提起されるなどです。
(4)離職率の増加
問題社員との対人関係にストレスを感じる従業員が退職を決意する可能性があります。
これにより、人材の流出や採用コストの増加といった問題が生じる可能性があります。今後人不足が懸念されている我が国において無視できないものです。
企業規模や業態によってリスクも様々
どの企業にも上記リスクは想定されますが、企業の規模等によって顕著となるリスクもまた変動します。
例えば、規模の大きい会社であれば問題社員以外にも多くの従業員が在籍していることや、配置転換や人事によって緩和策を取ることもできるため、モンスター社員の職場環境に与える影響自体は希釈化されます。一方で規模の小さな組織で発生した場合、その影響は甚大です。一人二役以上の業務を兼務していることも珍しくなく、当該社員一人の影響が業務全体に及ぶことが少なくありません。
なお、対外的な信用や企業イメージの観点からは、大企業やBtoCの企業ほど影響が顕著です。特に、最近、SNSで従業員の不適切な言動がクローズアップされています。従業員が面白半分にSNSにアップしたコメントや動画が社会的反響を巻き起こし、その人物の勤務先企業の名前がインターネット上にさらされる結果として、売上や株価の減少、対応策への莫大なコストが生じることが以前と比べて増えてきています。
4 モンスター社員を辞めさせることはできるのか?
該当するモンスター社員との雇用契約関係を終了させることになりますが、以下の方法があります。
(1)退職勧奨により自主的に退職して貰う方法
退職を促す事によって自主的に退職を選択してもらう方法です。
注意しなければならないのは、優位な立場にいる上司、経営陣からの退職勧奨だと、実質的には強制的に退職させた、あるいは自由な意思が抑圧されて不本意に退職の途を選んだと判断され、労働審判や裁判等で退職の意思表示自体が無効であると判断される可能性があります。
(2)合意退職による方法
雇用主と従業員の合意によって労働契約を解消する方法です。
双方真摯な意思で行うものであれば、使用者側として後から蒸し返されるリスクが一番少ないものですが、従業員に退職して貰う代わりに会社側で解決金や退職金などを支払う事も多く、退職後の競業回避や秘密の保持などの問題も生じるため、退職に関する合意書を作成することが推奨されます。
(3)解雇
雇用主が一方的に従業員を辞めさせることです。普通解雇や懲戒解雇などのいくつかの種類があります。
詳しくはモンスター社員に対する対応の項目でお話しますが、いずれにしても従業員の生活の基盤を奪うものですので、労働契約法第16条において「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定され、その有効性判断は裁判所でも厳格に行われます。
慎重な対応を
どの方法を選択するにしても必ず法律や倫理を遵守し、適切な手続を踏むことが重要です。また、当該社員に改善の機会を与え、そのプロセスを公正に進めることも大切です。
一刻も早く辞めさせたいという事で、法律や就業規則等を無視、あるいは軽視して適切な手順や当該従業員に改善の機会を与えずに解雇手続等を行う使用者の方もおられますが、
解雇後、裁判等に発展してしまえば想定外の負担が生じる可能性もありますので、モンスター社員への対応には一層の慎重さが求められます。
5 モンスター社員の特徴と心理
問題社員の特徴はおおむね以下の通りです。
(1)自己中心的
問題社員はしばしば自己中心的で、自分の意見や考えが正しいと信じて疑わない傾向があります。他人の意見を尊重することが難しく、自分の考えを押し付けることが多いです。
(2)他責性
自分のミスや失敗を認めず、他人や環境のせいにすることが多いです。自己反省や自己改善の意識が低く、同じ失敗を繰り返すことがあります。
(3)コミュニケーション力の不足
自分の考えや意見を適切に伝える能力が不足していることがあります。また、他人の意見を理解し、受け入れる能力も低い場合があります。
(4)ストレス耐性の低さ
小さな問題やストレスに対して過剰に反応することがあります。これは、職場での対人関係や業務遂行に影響を及ぼすことがあります。
モンスター(問題)社員と早急に決めつけるのは厳禁
以上のような特徴を持つ社員は、職場での人間関係や業績に悪影響を及ぼす可能性がありますので、早期の対応が求められます。
もっとも、これらの特徴がある者が問題社員というわけではありません。従業員一人一人には個性があります。良いところが、見方によって悪いところに見えることがあります。例えば、自己中心的とは言い方を変えれば、「突破力がある」とか「ぶれない心をもつ」などと肯定的な評価をすることもできます。ですので、上記特徴や心理があるからといってそれだけで従業員をマイナス評価し、問題社員であると断定することは現に慎むべきです。
6 モンスター社員が増加する社会的背景
社会情勢の変化や価値観の多様化により様々な見方がありますが、以下のような背景があると思われます。
(1)労働環境の変化
テクノロジーの進歩やグローバル化により、労働環境は大きく変化しています。これにより、従来の働き方やコミュニケーションスタイルの急激な変化に適応できない社員が問題社員となる可能性があります。
(2)ワークライフバランスの崩壊
長時間労働が続くと、社員の健康や精神状態に悪影響を及ぼす可能性があります。体調を崩したり、ストレスによる精神的な問題を抱えると、その社員の仕事の質やパフォーマンスが低下する可能性があります。また、プライベートな時間が減少することで、家庭生活や趣味などのリフレッシュの時間が取れず、ストレスが溜まりやすくなることもあります。
過度なストレスは、社員の判断力やコミュニケーション能力を低下させる可能性があります。これにより、職場での人間関係が悪化したり、ミスが増えたりすることもあります。また、ストレスが原因でイライラしやすくなったり、攻撃的な態度を取るようになったりすると、その社員が問題社員となる可能性もあります。
以上のように、ワークライフバランスの崩壊は、社員の健康やパフォーマンスの低下、人間関係の悪化などを引き起こし、結果として問題社員の増加につながる可能性があります。
(3)人間関係の複雑化
社会全体の人間関係が多様化し、複雑になっている状況を指します。これは、働き方の多様化、世代間の価値観の違い、文化や背景の異なる人々との共同作業の増加など、さまざまな要素により引き起こされます。
これにより、個々の社員が抱えるストレスや対人関係の問題が増え、それが問題行動となって表れることがあります。また、人間関係の複雑化は、社員間のコミュニケーションを難しくし、誤解や対立を生む原因ともなります。これらが組織内で解決されないまま放置されると、問題社員が増加する可能性があります。
(4)組織文化のミスマッチ
企業の組織文化や価値観に社員が適応できない状況を指します。企業はそれぞれ独自の組織文化を持っており、その中で働く社員はその文化を理解し、受け入れることが求められます。しかし、全ての社員がその組織文化に適応できるわけではありません。
例えば、企業の組織文化がチームワークを重視しているのに対し、個々の業績を重視する社員がいた場合、その社員は組織文化に適応できず、問題を引き起こす可能性があります。また、企業の価値観が社会貢献を重視しているのに対し、利益追求を最優先する社員がいた場合も同様です。
このような不適合は、採用時のマッチングの問題や、組織文化の適切な浸透・共有が行われていないことが原因となることが多いです。採用時には、候補者の価値観が企業の組織文化と合致するかを確認することが重要です。また、組織文化を社員に理解し受け入れてもらうためには、定期的なコミュニケーションや教育が必要となります。
(5)メンタルヘルスの問題
近年、メンタルヘルスの問題は社会全体で注目されており、企業の中でもその影響は無視できません。ストレスやうつ病、不安障害などの心の病は、社員の行動やパフォーマンスに大きな影響を及ぼす可能性があります。
これらの問題を抱える社員が、職場で問題行動を起こすケースも少なくありません。その原因は多岐にわたり、過度なストレス、人間関係の問題、仕事の内容や量、働く環境などが挙げられます。
企業としては、社員のメンタルヘルスを適切に管理し、サポートする体制を整えることが求められます。それにより、問題行動を起こす社員の増加を防ぐことが可能となります。
(6)インターネットの普及と労働者権利意識の向上
今ではインターネットを使って多くの人が容易に様々な情報にアクセスすることができます。労働者の権利に関する情報も直ぐに手に入れる事ができるのですが、ハラスメントの言葉が一人歩きしているように、この権利を適切に行使せず、殊更に強調したり拡大解釈をして他人や会社に迷惑をかける方は残念ながら一定数は存在します。
これらの要素が、問題社員が増加する社会的背景として考えられます。
それぞれの要素は複雑に絡み合っており、一概にこれが原因とは言えませんが、これらを理解することで問題社員の予防や対策につながるでしょう。
最近、人間関係の複雑化やメンタルヘルス問題を背景とする労働問題が増えてきているように思えます。これらの問題は、企業(組織)の問題というより日本社会の問題ともいえ抜本的な解決が難しいことが多いといえます。
7 モンスター社員対応
問題社員対応は様々な手法で行われますが、以下のような手順で行われることが多いです。
(1)事実確認
問題社員の行動や状況を具体的に把握します。これには、関係者からの情報収集や証拠の収集が含まれます。
(2)法的評価
収集した情報を基に、問題社員の行動が法律、就業規則又は雇用契約に違反しているかを評価します。
(3)対策の検討
法的評価の結果を基に、問題社員に対する対策を検討します。職場環境の改善、問題社員の配置転換、注意や警告、懲戒処分、解雇などが含まれます。
(4)対策の実行
提案された対策を実行します。これには、訴訟や労働審判等の法的手続が含まれます。
(5)フォローアップ
対策の実行後、問題社員の行動に変化があるかを確認します。また、同様の問題が再発しないように、必要に応じて職場環境の改善や教育の提供などを行います。
8 モンスター社員対応の具体的な流れと注意点
弁護士が企業から問題社員対応の助言・対応を求められたとき、順次、以下のような対応を助言あるいは行うことになります。なお、以下の記載はあくまで一例です。
(1)情報収集
まずは使用者として問題の状況を適切に把握し、後に適切な対応を行うためにも証拠を残しておくことを優先して必要があります。
関係者へのヒアリングや面談、該当社員の情報端末のログの確認や社内外へのメールやメッセージの確認、職場にカメラなどがあるのであればその調査と映像の保全などです。
個人のプライバシーを侵害するような限度を超えた情報収集は許されませんが、ここでどれだけの情報を集められるかで、今度使用者側で取りうる対応の強さや、それが裁判等の法的手続において認められ得るかが変わってきますので、最初の重要なプロセスと言っても過言ではありません。
(2)業務改善指導
労働者の行動や業務遂行に問題があると判断した場合に、その問題点を明確にし、改善を促すために指導を行います。この指導内容を書面化したものを業務改善指導書といいます。
事後の紛争に備えるため、口頭だけではなく文書での指導が望ましいといえます。業務改善指導書には、具体的な問題行動やその日時、場所を明記し、どのように改善すべきかを具体的に指導する内容が記載されます。
これは、問題行動を改善するための一助となるだけでなく、万が一の労働紛争が発生した際の証拠ともなります。そのため、改善指導書は具体的で明確な内容が求められ、適切な形で労働者に渡されるべきです。
改善指導書を交付したときには必ず受領した旨のサインをもらうようにしてください(又は社内用のシステムのメッセージ機能を用いて送信する方法も交付方法としてありえます。)。また、労働者の人権を尊重した上で、適切な言葉遣いで書かれるべきです。
(3)注意勧告(指導)
労働者が職務上の義務を怠ったり、職場の規則を破ったりした場合に、その行為を改めるようにと勧告(指導)を行います。これを書面化したものが注意勧告書(注意です(指導書とも言います。)
これは具体的な行為とその日時、場所、改善方法を具体的に指導し、労働者に改善の機会を付与するためのものです。労働者の権利を守るため、また同様の問題が再発しないようにするための手段であり、場合によっては労働者の解雇の根拠ともなります。
なお、注意勧告(指導)書の中で、以下のような文言が含まれていることがあります。また、書面化されていなくても、個別面談などで、口頭で以下の内容の約束があったと主張する事案がありました。
・「今度同じミスをした場合、厳罰に処されても以後はありません。」
・「再度、会社又は従業員、取引先にご迷惑をおかけしたときには、損害額を給料から天引きされても意義はありません。」
・「私は、これまで〇回同じミスをしました。本件で、私に対して労働契約上の不利益な処分を科されても異議申立をしません。」
このような、事前承諾や異議(不服申立)権の放棄は労働者の本意によるものとは言えない、あるいは強制された意思表示として効力が否定されることも決して少なくありません。あくまで、注意勧告(指導)の目的は従業員への改善の機械の付与です。確かに、注意勧告(指導)書が裁判上の証拠とされることはよくありますが、改善指導の枠を超えた行いには注意が必要です。
改善指導を行った従業員の改善状況の記録は不可欠
改善指導の結果、改善が見られた部分とそうでない部分を必ず記録しておきましょう。今後の懲戒処分や解雇の可否に直結する証拠になるものです。
(4)人事権の行使
異動(転勤)命令や賃下げを伴う降格などがあります。なお、この降格は懲戒処分の降格とは異なります。
「異動命令」
異動命令が有効に行われるためには、以下の事情が必要です。
a 事業運営上の必要性
異動命令は、企業の事業運営上の必要性に基づいて行われるべきです。これは、組織の効率化、業績改善、人材の育成など、企業の正当な経営判断によるものである必要があります。
b 公平性
異動命令は、公平かつ合理的な基準に基づいて行われるべきで、特定の従業員を不当に差別するような異動は許されません。
c 従業員の生活環境の考慮
異動命令は、従業員の生活環境を考慮した上で行われるべきです。特に、海外への異動の場合には、従業員の家庭環境や健康状態などを考慮する必要があります。
d 就業規則等の遵守
異動命令は、企業の就業規則に従って行われるべきです。就業規則に異動の手続きや基準が明記されていない場合、異動命令は無効となる可能性があります。
「賃下げを伴う降格」
降格は昇給と異なり当然には予定されていませんので、その内容及び手続は就業規則等で明確に定める必要があります。また。従業員からの意見聴取の機会の付与もあったほうがよいでしょう。
(5)懲戒処分(懲戒解雇以外)
問題社員の行動が就業規則記載の懲戒事由に該当する場合、使用者は、企業秩序に違反した問題社員に対して一方的に制裁罰を加えることができます。注意しなければならないのは、就業規則に明確に懲戒事由と懲戒処分の内容を記載しておかなければ、使用者側は懲戒処分をすることができません(労基法15条、89条)。また、懲戒権を濫用してはいけません(労働契約法15条)。仮に濫用が認められた場合、当該懲戒処分は効力を否定される可能性があります。
懲戒処分の種類は、様々なものがありますが、以下のものがあります。
訓告(戒告)
社員に対して、その行為が会社の規則や方針に違反していることを通知し、再発防止を求める処分です。
けん責
訓告よりも重い処分で、社員の行為が会社の規則や方針に大きく違反していることを指摘し、再発防止を強く求める処分です。
減給
社員の給与を一定期間減らす処分です。その期間と減額幅は、違反の重さによります。
出勤停止
社員に対して一定期間の出勤を禁止する処分です。この期間、社員は給与を受け取ることができません。
降格
社員の職位を下げる処分です。これにより、給与や待遇が下がることもあります。
諭旨解雇
社員に対して、自発的に退職するよう求める処分です。これは、懲戒解雇とは異なり、社員の意思による退職となります。
解雇
こちらについては後述します。
(6)解雇
解雇には整理解雇、普通解雇、懲戒解雇等のいくつかの種類があるのですが、モンスター社員対応ということになると、この内の普通解雇か懲戒解雇を行うという事になります。整理解雇はいわゆる余剰人員の整理のために行う解雇で、問題社員対応とは直接的には関係しませんので、今回は割愛させていただきます。
懲戒解雇については就業規則に記載された懲戒事由が無なければそもそも行う事ができませんので、これを行うことができるケースは相当限定されます。犯罪を犯して有罪判決が確定したような該当社員の責任が相当重大な場合に可能とされる解雇です。
このため、一般的には、各種指導や軽微な懲戒処分を繰り返してもなお改善が見られないような場合に普通解雇を行うという場合が多いことになります。
詳しくは解雇について触れているコラムで紹介しますが、いずれの解雇にしても解雇権濫用法理というルールがあり、解雇が客観的合理性と社会的相当性を備えていることが求められます。
参考条文
9 裁判例(事例)紹介
事例1 パフォーマンスが低い社員(能力不足)
能力不足者の解雇が有効とされた事例 海空運健康保険組合事件(東京高裁平成27年4月16日判決)
1 業務遂行能力の評価
原告の業務遂行能力が著しく低く、業務に支障をきたしていたこと、被告は原告に対して複数回にわたり指導や教育を行ったが、改善が見られなかった。
2 解雇の合理性
原告の業務遂行能力の不足が組織全体に悪影響を及ぼしていることが認められ、解雇の理由として合理的であるといえ解雇が有効であると判断された。
事例2 態度が悪い社員(勤務態度不良)
会社が勤務態度や業務遂行能力に問題があるとした従業員に対する解雇処分が無効と判断された事例 テイケイ株式会社事件(東京地裁平成23年11月18日判決)
1 就業規則規範の認定と手続の適正
本件では、原告の勤務態度や業務遂行能力に関して、就業規則に抵触する事項があった。
しかし、被告の収入の減少に関係する労働条件の変更に関して原告と十分な協議をした形跡がなかった。
2 解雇の合理性
解雇に至る手続が適正とはいえず解雇は無効と判断された。
事例3 健康不安、コミュニケーションが苦手な社員
コミュニケーション能力不足などを理由に解雇が有効と判断された事例 学校法人A学園満了)事件(那覇地裁令和元年11月18日)
1 コミュニケーション不足
原告において自身の問題点を省みる姿勢に乏しく、議論の前提をとらえた会話が困難で、そのことを原告が認識していない可能性が高いといえる。
そして、原告に関する数々の問題点は、採用後に初めて把握できるものであり今後、当該問題点が改善できる見込みは薄い。
2 解雇の合理性
今後雇用の継続で問題がさらに大きくなり状況が悪化することが予想されるので解雇はやむを得ない判断であり有効と判断された。
事例4 私生活上のトラブルを抱える社員
鉄道会社の従業員が痴漢行為をして有罪判決を受けたことを理由とする懲戒解雇が有効であると判断された事例 小田急電鉄事件(東京高裁平成15年12月11日)
1 懲戒事由があること
強制わいせつではなく、単なる条例違反であるが、決して軽微な犯罪ではなく、まして、原告が痴漢を防止すべき鉄道会社の従業員であること、半年前に同じ内容の痴漢行為で罰金刑に処せられたという事実がある。
懲戒解雇は、処分の中で最も重い処分であるが、事件内容が報道され原告が既に社会的制裁を受けているとして、解雇という処分もやむを得ない。
事例5 遅刻が多い社員
遅刻が余りにも多い社員に対する諭旨解雇が無効とされた事例(神田運送事件東京地方裁判所 昭和50年9月11日)
1 懲戒事由
1年間に100回近く遅刻・早退を行った。また25回程度の欠勤の事実がある。
2 解雇の合理性
会社は、勤務状態の不良についての制裁措置をとらず、反省の機会を与えないまま諭旨解雇としたがこれを無効とした。
確かに、遅刻・早退と欠勤の頻度はあまりにも多く、外尾授業員への影響も決して小さくはないものの、勤務状態の不良について解雇以外の制裁をせず、また、弁明の機会がなかったことを会社に不利益な事情として挙げかつこれを重く見て、解雇を無効とした。
10 モンスター社員対応(問題社員対応)については弁護士にご相談ください
虎ノ門法律経済事務所では、前身の事務所を含めて1972年の創業以来労働者側と使用者側の双方で、問題(モンスター)社員への対応も含めて多数の労働問題を解決してきた実績があり、豊富な経験と専門知識を活かした解決策を提供してきました。
日本経済新聞でも2024年度の「企業側労働法務として頼れる弁護士5選」に選出されております。
また、法人全体で合計300社を超える法人と顧問契約を締結しており、経営者の方からの実践的な労務相談にも対応しております。
労働問題を抱えている方、または事業を始める方は、まずは弁護士にご相談ください。当法律事務所では、初回相談を無料で受け付けております。お気軽にお問い合わせください。


中尾 武史
弁護士事件を無駄に長引かすことをせず、依頼者に寄り添いつつ基本的に交渉での解決を目指しております。また、裁判案件であっても、スピーディーに解決することを心がけています。
労働契約法
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。