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2024.07.24

試用期間中に解雇は出来る?重要注意点を弁護士が解説!

試用期間中に解雇は出来る?重要注意点を弁護士が解説!
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長谷川 周吾

弁護士
虎ノ門法律経済事務所 本店パートナー
法的紛争に巻き込まれた当事者は、法律という未知の問題に困惑し、不安を抱え込み、精神的負担と感じることが多くあると思います。
そのような依頼者の皆様の気持ちに寄り添い、不安を解消し、相談相手として頼れる存在であれるよう、全力で業務に邁進してまいります。

1 試用期間とは?

(1)試用期間が定められる目的

日本企業においては、面接を経て採用を決定した新規労働者について、実際に会社の業務に適合しているかどうかを確認・判断するために、入社後に一定程度の見習い期間を設けることがあります。これが「試用期間」です。

会社は、この試用期間中に、労働者に実際に作業を行わせ、業務遂行能力、コミュニケーション能力、健康状態等を踏まえ、会社に適合しているかどうか(=正式に採用するかどうか)を決定することになります。

(2)試用期間の長さについて

日本企業における一般的な試用期間の長さは、概ね3か月程度とする会社が多く、長くとも6か月程度に設定している会社がほとんどとされています。

試用期間が長ければ長いほど、会社としては判断材料を多く集めることができるため、十分かつ慎重に判断をすることができます。一方で、労働者の立場からすれば、試用期間が長いということは、本採用されるまでの不安定な地位が長く続くことを意味しますので、そのような会社に応募することを控える理由になり得ます。

なお、労働契約を締結するにあたり、試用期間の長さについて現行の法律では特別の規制は定められていません。[1]

しかしながら、試用期間の長さが、本採用の可否を決定するための適格性を判断するのに必要な合理的範囲を超えた部分は民法90条により無効であると判断された裁判例も存在しますので、会社としては注意することが必要です。[2]

したがいまして、労働契約において試用期間を設けるにあたっては、本採用するまでに検討が必要な時間と、労働者の立場の両側面を考慮し、適切な期間であるといえることが必要です。

(3)試用期間を延長することはできるか

繰り返しとなりますが、試用期間とは、会社が新規労働者の適格性を判断するための期間です。しかし、労働契約において定めた試用期間を経ても、「本採用するべきかどうか判断しかねる」という場合もあるかもしれません。

このような場合に、会社としては、「試用期間」を延長することを一方的に決定できるかどうかが問題となります。

この点、試用期間を延長することは、労働者にとっては不安定な期間が長引くことになり、その意味で不利益がありますので、就業規則上に具体的な定めがあるなどの契約上の明確な根拠がない限り、原則として認められません。そのため、会社としては、就業規則に試用期間の延長があり得ることをあらかじめ明記しておく必要があり、就業規則上の規定がない場合は、延長について従業員の同意が必要となります。

もっとも、就業規則に根拠があるからといって、理由なく試用期間を延長することはできず、延長することについて「合理的理由」があることが求められます。[3]

(4)試用期間の法的性質

試用期間中の労働者の勤務状況から、会社に適合していないことが判明し、また、履歴書には記載されていなかった事実が明らかになり、履歴書の記載に虚偽があることが分かったというケースも存在します。このような場合に、会社は、本採用を拒否することができるのか問題になります。

この点、試用期間の法的性質は、「解約権留保付労働契約」であると一般的に考えられています。[4]

つまり、試用期間とは、「労働契約の解約権が留保されているものの、労働契約は成立している状態」であるということです。したがって、労働契約が成立している以上、会社が本採用を拒否するためには、解雇の場合と同様の法的規制があり、一定の要件を充足する必要があります。

それでは、本採用を拒否できると言えるためには、どのような要件が必要になるのか、以下詳述します。

 

2 本採用を拒否(解雇)することはできますか?

前述したように、試用期間の法的性質は「解約権留保付労働契約」であるため、会社の都合で自由に本採用を拒否できるものではありません。この点、どのような場合に本採用を拒否できるのかについて、最高裁判所(三菱樹脂事件)は、以下のように述べています。

 

「留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべき」である。

 

「前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできない」

 

つまり、通常の解雇と、試用期間中の本採用拒否を比較した場合は、後者(本採用拒否)の方が会社に広い範囲の自由があることを認めた上で、本採用を拒否するためには、① 解約権留保の趣旨・目的に照らして、② 客観的合理性、③ 社会通念上の相当性がある、ということが必要であると述べられています。

 

もっとも、「客観的合理性」、「社会通念上の相当性」という判断基準は抽象的であり、ケースバイケースでの判断が必要になることから、会社の人事担当者としては、本採用を拒否することが適法なのか、違法なのか、不透明かつ不安に思われるでしょう。

また、三菱樹脂事件の判旨では、本採用拒否は、解雇の場合よりも「広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべき」と述べられていますが、実際の紛争で「簡単に認められる」という話ではなく、会社の主張を「証拠に基づいて立証できるかどうか」にも大きく関わりますので、注意が必要です。

したがいまして、本採用を拒否するにあたっては、実際に争われた裁判例と比較するなどしたうえで「裁判所が着目する重要な事実」を理解する必要がありますので、本採用拒否を通知する前に、弁護士に相談することをお薦めします。

 

3 本採用拒否が争われた裁判例(【有効】と判断したケース)

(1)欧州共同体委員会控訴事件[5](東京高判昭和58年12月14日労民集34巻5・6号922頁)

【事案の概要】

能力主義を採用している会社で、「Aランク」という高い地位により高い給料で中途採用された労働者について、仕事への積極性が欠けていること、編集能力や英語の能力が不足していたこと、上司の命に素直に従わず協調性が欠けていたことを理由に、本採用拒否したことが適法であると判断された事例。

 

【判旨の抜粋】

試用期間中において、ECジャーナルの編集、発行の仕事、とりわけ校正、原稿整理等の仕事に力を注ぎ、その余の広報室の仕事については積極的にこれを遂行しようとしなかったのみならず、その仕事ぶりにはミスがないでもなかったものである。しかも、右編集、発行に関する労働者の能力は、会社の期待に応えるものではなかったばかりでなく、労働者の英語の能力も、会社が採用時において予想した程度に達していなかったものであり、さらに、労働者は、上司の命に素直に従わず、また、同僚の職員等との協調性に欠ける点があったのである。

そして、他方、会社は、駐日代表部の雇用形態としていわば能力主義を採用し、ランク別に地位、給与等に格差を設け、AランクやBランクの該当者に対しては年齢が若くてもかなり高い給与を支給していたものであり、この点からみると、会社が、右のような高いランクの職員の採用に際して、適格性の審査を十分に行うため試用期間を設けて解約権を留保するのは、このような雇用形態を採らない場合に比し、より強い合理性を有するものということができ、本件契約において留保された解約権の行使は、ある程度広くこれを認めることができる

労働者が、大学卒業後数年間他の職についた後に採用された、いわゆる中途採用者であり、他方、会社が、日本において営利を目的とする民間企業でなく、欧州共同体という国際機関の委員会であって、その駐日代表部は我国における広報活動を含む諸活動に従事するものであることなど前認定の事実関係をすべて総合して判断するときは、会社が、労働者について、駐日代表部の職員として適格性を欠くとしてその本採用を拒否したことは、試用期間に伴う前記解約権留保の趣旨、目的に照らして合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認することができるものといわざるを得ない。

 

【裁判例を理解する上でのポイント】

この事例では、新卒社員ではなく、高い能力があるということを期待され、高賃金での待遇により採用された中途採用の労働者について、会社の性質上、欧州共同体という国際機関の委員会として、広報活動を含む諸活動を行う能力、英語の能力が求められる職種であったことから、会社にはある程度広い解約権が認められると考えられ、本採用拒否が有効なものとして認められました。

そのため、労働者が新卒か中途採用か、労働契約上どのような待遇であるのか、どのような能力が期待される職場であるのか、が判断のポイントになります。

(2)三井倉庫事件[6] (東京地判平成13年7月2日労経速1784号3頁)

 

【事案の概要】

倉庫業を営む会社に採用された新卒の労働者について、会社が指導教育をしているにも関わらず、平易な業務で頻繁にミスを繰り返すなど事務処理能力が欠けていたことを理由にした本採用拒否が適法であると判断された事例。

 

【判旨の抜粋】

会社の労働者に対する指導教育内容は新規学卒女子社員に対するものとして特段問題はなく、むしろ、労働者の履修レベルに応じて担当業務を軽減、変更等の調整をし、指導教育を強化ないし工夫し、これに伴い人員配置を増加させるなど適切なものであった。

また、労働者に対しては、ごく軽微なものは別としてミスが発覚する都度是正のため注意し反省を促した。それにもかかわらず、労働者は、当初の見習い期間はもちろん、延長期間中も解雇されるまで頻繁にミスを繰返した

その中には、宛名の二社併記など通常では考えられないもの、ミスを指摘して訂正させたにもかかわらず訂正後さらに誤りがあるもの、会社に重大な損害を発生させるおそれがあるものなど態様の重いものが相当数含まれており、これを他の従業員の負担においてカバーすることを続ければ、職場全体の意欲や規律の低下を招くおそれがある。

そして、労働者の与えられた担当業務が会社において平易な内容のものであること、その他の職員と比べればもちろん、概ね三か月位で自立できる状況である従来の新規学卒女子社員と比べても事務処理能力が大幅に劣ることを考慮すると、労働者は会社従業員として求められる能力や適性を著しく欠いており、就業規則上の普通解雇事由が存すると認められる。

 

【裁判例を理解する上でのポイント】

この事例では、新卒社員に対して会社が相当な指導教育を行っていたことを踏まえ、労働者が担当している業務内容(平易であった)、ミスの内容(通常では考えられない内容であった)、頻度(頻繁であった)、重大性(会社に重大な損害を発生させる可能性があった)を考慮して、本採用拒否が有効なものとして認められました。

そのため、会社が必要な指導教育を行っていたかどうか、労働者の業務内容、ミスの内容、頻度、重大性が重要となります。また、この点を具体的に主張・立証するために、資料を残しておくことが必要になります。

(4)ブレーンベース事件[7](東京地判平成13年12月25日労経速1789号22頁)

【事案の概要】

医療材料・機器製造販売を主な業務とする株式会社で採用された労働者が、業務指示に速やかに応じず、採用時にはパソコンの使用に精通していると述べていたにもかかわらずファックス送信も満足にできなかったことなどを理由にした本採用拒否が、適法であると判断された事例。

 

【判旨の抜粋】

労働者は、労働者の業務分担上その業務補助を行うべき者からの緊急の業務指示に対し、他に急を要する業務を行っているわけでもないのに、これに速やかに応じない態度を取る、また、採用面接時にはパソコンの使用に精通している旨述べるなどしていたにもかかわらず、パソコンの使用経験のある者にとって困難な作業ではないファックス送信について、満足に行うことができず、業務上の指示についてもこれに応じないことがあり、会社の業務にとって重要な商品発表会の翌日に二回休暇を取ったことがあるという状況にあった(なお、労働者は、会社の業務内容や自らに与えられた業務内容に照らし、商品発表会の翌日には重要な業務があり、これを執り行うことについて会社から期待されていることを認識していた)こと、しかも、これら労働者の分担業務が全体として錯綜するなどといった、高度ないしは困難な事務処理を任されていたわけでもなかった。

会社は、取締役を含めた実働社員四名の零細な規模の企業である。

以上の事情にかんがみると、将来的には労働者に自ら顧客となるべき者に対する商品説明を行うなどして、上記のとおり、会社の商品の販売につながる業務を行うことを期待した会社にとっては、労働者の業務状況は、遅くとも平成11年3月末時点で、そのような期待に沿う業務が実行される可能性を見出し難いものであったと認めるのが相当である。

よって、本件解雇は有効である。

 

【裁判例を理解する上でのポイント】

この事例では、業務指示に速やかに従わないという勤務態度や、採用時にはパソコンに精通していると述べていたにもかかわらず、実際にはファックス送信も満足にできなかったこと、難しい業務を任されていたわけではなかったこと、会社が労働者に期待していた能力を踏まえ、本採用拒否が有効なものとして認められました。

このように、会社としては、面接時に労働者から聞き取った内容について資料を残しておくことが望ましいです。また、労働者の能力のみならず、勤務態度や勤務時の発言内容について具体的に主張・立証するために、資料を残しておくことが重要となります。

 

4 本採用拒否が争われた裁判例(【無効】と判断したケース)

(1)テーダブルジェー解雇事件(東京地判平成13年2月27日労判809号74頁)[8]   

【事案の概要】

ベンチャーキャピタル(将来的に成長が期待できる会社を発掘し、その会社に投資することによって、将来投資した会社が上場する等成長したときに利益を得ることを目的とする投資業務)を行う会社に中途採用された労働者について、会長にあいさつをしなかったことを理由にした本採用拒否が無効であると判断された事例。

 

【判旨の抜粋】

会社の主張に係る各事実は全く存在しなかったか、仮に存在していたとしても、会社においては本件労働契約の打切りを考える理由になり得るほどに容易に看過することができない事実とは受け止められていなかったものと考えられるのであって、このことに、本件採用取消しに至るまでの経過及び証拠を加えて総合考慮すれば、本件採用取消しは、A会長が会社の事務所を訪れたときに労働者が声を出してあいさつしなかったことを理由にされたものと認められる。

本件採用取消しに及んだことが社会通念上相当として是認することはできないから、本件採用取消しは、解雇権の濫用として無効である。

 

【裁判例を理解する上でのポイント】

この裁判で、会社側は本採用拒否を行った理由として以下のように主張しています。

① 営業幹部として業務に対する意欲、熱意、計画性が感じられなかったこと

② 行動力、対人折衝能力、新規開拓力等の営業力が欠けていたこと

③ 部下に対する指導力が不足していたこと

④ 物事の判断が独善、独断的であり、冷静かつ客観的な判断力が要求されるベンチャーキャピタリストとしては性格的に不向きであったこと

⑤ あいさつ、礼儀、規律を社是とする会社の社風になじめなかったこと

しかしながら、裁判所は会社側の①から④の主張について、証拠が不十分であるために事実とは認められないとし、本採用拒否は無効であると判断しました。

仮に、会社側が主張する①から④の主張について、証拠が十分揃っており、会社がこれらの事実を重く受け止めていたということを立証できた場合は、結論が変わっていた可能性があります。

そのため、会社としては、「法的紛争になった場合に、客観資料をもとに立証できるかどうか」が勝敗を決する重要なポイントになります。

(2)日本軽金属見習社員解雇事件(東京地判昭和44年1月28日労民集20巻1号28頁)

【事案の概要】

労働者の勤務態度や能力に不足があったとしても、指導教育により矯正・改善することが見込まれる場合には、それを理由に本採用を拒否することは無効であると判断された事例。

 

【判旨の抜粋】

教育によってたやすく矯正し得る言動、性癖等の欠陥を何ら矯正することなく放置して、それをとらえて解雇事由とすることは許されない。また職場の対人的環境への順応性及び職場における労働力の発揮力といっても、その学歴、就くべき職種を考慮に入れた上、その平均的労働者を標準とすべきものである。

上司Aが新入社員全員に対し、レポート不提出を叱責し、全員遺憾の意を表した際、労働者は、独り多少反発的に「命令を出された場合、被命令者はこれを納得した上で実行した方がよい。」との趣旨の発言をしたこととなるが、この一事を以てその者の全人格を評価、批判するのは過酷である。

従って、労働者の右言動を以て解雇事由となすことは、解約権行使の範囲を脱逸するものといえる。

 

【裁判例を理解する上でのポイント】

この裁判では、労働者が上司に対して反抗的な発言を行った事実が認められています。しかしながら、裁判所は、指導教育によって改善できる可能性もあることを理由に、そのことをもって直ちに本採用拒否を行うことは相当でないと判断しました。

そのため、会社としては、労働者の勤務態度や能力に不足があったとしても、そのことを理由に直ちに本採用拒否の判断を下すのではなく、まずは丁寧な指導・教育を行うことが必要です。その上で、本採用を拒否すると判断するのであれば、「会社が丁寧に指導・教育を行ったこと」や「会社の指導・教育にも関わらず労働者の勤務態度や能力に改善が見られなかったこと」に関する資料を残しておくことが重要です

(3)新光美術(本採用拒否)事件[9](大阪地判平成12年8月18日労判793号25頁)

【事案の概要】

中途採用された労働者について、職務遂行上の能力に欠けている点は認められたものの、勤務態度は誠実であったと認定し、会社がした本採用拒否を無効であると判断した事例。

 

【判旨の抜粋】

以上によれば、仮に会社が主張するように、労働者に、できてもいない見積計算の演習をできましたと述べたことがあったり、会社の「営業部員のチェックポイント15」を十分修得していなかったり、レポートの体裁もとれていない書面をレポートとして提出するなどの点があったとしても、労働者は会社に採用後、概ね営業職として誠実に職務を遂行していたものといえる。

それゆえ、B部長も、同事業部へのプレゼンテーション終了後、労働者に対し「これからは君ら若い営業マンに頑張ってもらわないと。」と言い、また労働者に本採用拒否を通知する際にも「君はこれから必要な人材だ、と言ったんだが・・・」と述べていたのである。

そして、会社での給料遅配発生後、労働者が組合の集会等に参加するようになり、労働者は、C総務部長から幾度と組合加入の有無を聞かれていたことをも考慮するならば、労働者に対する本件本採用拒否が、合理的理由があり、社会通念上相当なものであったとは認められず、本件解雇は無効であるといわざるをえない

 

【裁判例を理解する上でのポイント】

この裁判では、労働者の能力が不足していることについて多々の事情があることを認めながらも、労働者の勤務態度や、会社の上司の発言などを総合考慮し、本採用拒否が無効であると判断しました。

つまり、裁判所は、会社の部長や総務部長の発言内容や態度から、「会社側は労働者の能力不足を重大な問題と捉えておらず、今後も会社で働くことを期待していた」という意味で評価して考慮し、結論を導いています。

訴訟になれば、関係者を証人として尋問することがありますが、今の時代、気づかないうちに会社側の発言について録音が取られ、証拠として提出されることがしばしばあります。そのため、会社内において一定程度の地位にある社員の何気ない発言の内容が、法的に意味を持つことがあるということに、注意が必要です。

 

5 本採用拒否の適法性を判断する重要ポイント(まとめ)

(1)判例理論

本採用拒否の適法性を判断するにあたり、最高裁判所が三菱樹脂事件において定立したルールは以下のとおりです。

 

① 本採用拒否は、解雇の場合よりも、会社に広い範囲における自由が認められる。

➡これは、「解雇と比較して」という意味ですので、「簡単に本採用拒否できる」という意味ではありません。

 

② 採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を理由に、本採用拒否をすることができる。

➡面接時から知っていた、または知ることができた事実を理由に本採用拒否を拒否することはできません。

 

③ 解約権留保の趣旨・目的に照らし、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と認められることが必要。

➡解約権留保の趣旨・目的、客観的に合理的かどうか、社会通念上相当といえるかどうかは、労働者の勤務態度や能力不足等について、個々の具体的事実を積み上げて主張・立証する必要があります。

 

(2)具体的な判断要素

上記の判断枠組みに照らし、裁判所が着目する重要な事実関係は、以下に述べる点などが挙げられます。

① 労働者が中途採用であるか、新卒採用であるか

採用した労働者が新卒である場合は、会社が丁寧に教育・指導を行ったかどうかが重要になります(中途採用であっても、前職の経験や知識を活かすことができない職場であれば、丁寧な教育・指導が必要です。)。つまり、新卒社員は、即戦力として一定の職務能力が備わっていることを前提に採用されるものではなく、適切な教育・指導を行うことが会社側の責任であると考えるためです。

採用した労働者が中途採用であり、職務上の経歴、能力、資格から即戦力として稼働することが期待される場合は、新卒社員の場合と比べて本採用拒否の判断は緩やかに考えられます。ただし、この場合であっても、会社が丁寧に教育・指導を行ったかどうかは一定の意味を持ちます。

② 会社が適切な教育指導を行っていたかどうか

労働者の勤務態度や能力に問題があったとしても、会社が適切かつ十分な教育指導を行っていない場合、裁判所は本採用拒否の効力を無効とする理由として位置づける傾向があります。そのため、具体的にどのような教育指導を行っていたのかが重要です。

会社による職業訓練は、業務遂行の過程において行う教育訓練(On-the-job-training=OJT)と、職務遂行の過程外において行う職業訓練(Off-the-job-training=Off-JT、外部セミナーや通信講座等)に大別されます。近年の技術革新と市場の動きの高速化のなかで、会社や労働者に求められる技術や業務の内容は高度化・専門化しており、これに対応すべく、OJTとOff-JTを併用して総合的に教育訓練を実施する動きが広がっています。

実際に、厚生労働省の調査では、計画的なOJTを実施している事業所、Off-JTを実施している事業所の割合は、直近の令和3年度調査では、正社員と正社員以外のいずれについても、前年度から微増となっています(在職者の能力開発に関するデータ(厚生労働省「能力開発基本調査」)。[10]

そのため、本採用拒否の判断に当たっては、会社において「OJTとOff-JTを併用して丁寧に教育訓練を行っていた」ということを具体的に主張・立証できることが望ましいと言えます。

また、「新人社員」を集団的に捉えて教育指導を行うだけではなく、個々の労働者と対面で面談を行い、勤務態度や業務遂行について適宜ヒアリングを実施し、必要に応じて個別的な改善指導を行うことが重要です。

 

③ 労働者の勤務態度

会社の業務命令に素直に従わない、上司に対して反抗的な態度をとるなど、労働者の勤務態度が不良であるという事実は、本採用拒否を正当化する一つの理由になります。

もっとも、労働者に問題が多々ある場合であっても、その一つをもって直ちに本採用許否が正当化されるものではなく、裁判所は、「会社が労働者に対して注意をしていたにもかかわらず、改善が見られなかった」場合に、本採用拒否を有効と認める傾向があります。

 

④ 能力不足(労働者のミス等)

労働者の能力が不足しておりミスが発生しているという事実は、本採用拒否を正当化する一つの理由になります。もっとも、軽微なミスを理由に本採用拒否が正当化されるわけではありません。

すなわち、ミスが発生したことについて労働者に落ち度があると言えるか(業務の内容からミスが発生してもやむを得ないと言えるかどうか)、頻度(繰り返し発生しているか否か)、重大性(会社に損害を与える可能性があるミスであるかどうか)が重要な判断要素となります。

また、労働者に求められる能力は、会社の事業内容によって当然異なりますので、会社の業務内容と関連付けて整理する必要があります。

 

⑤ 経歴詐称

履歴書の記載や、面接時で説明があった経歴に詐称があることは、本採用拒否を正当化する一つの理由になります。もっとも、直ちに本採用許否が正当化されるわけではありませんので、会社の業務内容や労働者に期待される能力との関係で、重要な部分について詐称があったということを具体的に主張する必要があります。

 

6 本採用拒否の判断をする前に会社において対応すべきこと

本採用するかどうかという判断は、労働者・会社の双方にとって重要な事項です。すなわち、労働者にとっては、生活するための資金を形成できるかどうかに直結する問題であり、会社にとっては、採用活動にかかるコストと労働力確保との関係で、慎重に検討すべき問題であると言えます。

そのため、判断を誤れば、労働者から法的紛争を起こされるリスクがあり、仮に会社側に不利な司法判断がなされた場合は、会社の社会的評価に悪影響を与える可能性も否定できません。したがいまして、会社としては後々のトラブルを避けるために、以下の3点が重要であるといえます。

 

① 早い段階から、本採用するかどうかの検討を開始すること

② 労働者と真摯誠実に協議し、必要に応じて退職勧奨を行うこと

③ 法的紛争に備えて、会社の主張を具体化・証拠化しておくこと

 

7 会社の主張を証拠化するポイント

当事者間に争いのある事実については、証拠があるかどうかによりその事実の有無が判断されます。本採用拒否の場面では、労働者の能力や勤務態度に問題があったと言えるかどうか、会社は適切な指導教育を行っていたかどうかについて「言った、言わない」の争いになることがあります。

この場合、証拠もなく主張するだけでは、会社にとって有利な結果を得ることはできません。そのため、会社の主張を証拠化しておくことが重要となります。

証拠には、人証と書証があります。人証とは、人の証言や供述などを証拠とするものを指します。書証とは、文書の存在やそこに記載されている意味内容などを証拠とするものを指します。この点、人証を行うには手間もコストもかかるだけでなく、過去の記憶に基づいた発言とならざるを得ず、当時の記憶をそのまま述べることができなくてもやむを得ませんので、可能な限り当時の記録としての客観的な文書を証拠として残しておくことが重要です。

それだけでなく、証人となる社員にも日々の業務があり、証人尋問の準備・予行練習には相当程度の時間がかかりますので、その分、会社の業務を行うことができないという問題があります。また、法的紛争に発展した際に、証人となりうる社員はすでに会社を退職している可能性もあるため、当時の事情について後からヒアリングできないという問題もあります。

また、本採用拒否を争う手段としては、①労働審判、②仮の地位を定める仮処分、③民事訴訟、がありますが、労働審判手続きでは、迅速な解決が要請されることとの関係で、証人尋問が実施されるケースは少ないです。さらに、仮の地位を定める仮処分では、任意的口頭弁論が開かれる場合は証人調べをすることができますが、実施するかどうかは裁判所の自由裁量に委ねられます。したがいまして、手続きの関係上、証人尋問が実施されないということもあり得ます。

そして、労働紛争は、会社にとって必ずしも予測可能性が担保されているわけではないことにも注意が必要です。つまり、会社としては労働者との間で話し合いにより解決できたと思っていても、後日、労働者が弁護士に依頼して、「突然、労働審判を申し立てられた」というケースも多くあります。法的手続きが係属した後になって、過去の事情について証拠を収集し、関係者にヒアリングを行い、事実関係を整理することは非常に大変です。

したがいまして、会社としては、日々の業務過程において、客観証拠となる文書を整えておくことが極めて重要です。例えば、以下のように会社の主張を証拠化しておくことが考えられます。

(1)労働者に業務日報を作成させる

その日の業務内容、業務上の課題、改善方法などを記載します。また、上司がコメントする欄を設け、労働者と会社との間で、どのような双方向的やりとりがあったのかを証拠として残します。

(2)上司・指導担当者による業務日報も残しておく

労働者に対して指導教育を行っていた上司が、法的手続が係属した時点において会社を退職しているという可能性があります。そのため、上司の目線で、労働者にどのような指導教育を行ったのか、労働者に改善がみられたかどうか、労働者の勤務態度や能力に対する評価などを記載し、会社側の認識を証拠として残します。

(3)注意・指導を文書により行う

労働者に対する注意・指導は口頭で行うことが多いと思われますが、勤務態度不良や能力不足の程度が重いと考えられるときは、必要に応じ文書を交付して、労働者の問題点や改善点を具体的に指摘し、注意・指導を行うことも検討すべきです。

(4)面接時・面談時における発言内容を議事録化する

面接時において労働者が説明した内容や、試用期間中に面談を行った際の発言内容については、後から「言った、言わない」の争いに発展することが多いです。そのため、面接時や面談時のやりとり、発言内容については、議事録化して文書で残しておくことが望ましいと言えます。

また、面談を1対1で行うと、より「言った、言わない」の争いに発展しやすいため、面談を行う際には、会社の担当者の複数人同席させることを検討すべきです。もっとも、会社側の人間が多すぎてしまうと、威圧的な印象を与える可能性もありますので注意が必要です。

 

8 弁護士に相談することのメリット

本採用拒否の判断は、個別の事案を総合的に考慮する必要があり、各事実を立証するためにどのような資料が必要かどうかは、裁判実務を知らなければ対応が難しいです。そのため、会社としては、トラブルを防止するという観点から、本採用拒否の判断を行うよりも前に弁護士に相談することをお薦めします。

弁護士に相談するにあたっては、「紛争が発生してから」では遅く、その事前段階における準備が必要となりますので、顧問契約を締結していつでもすぐに相談できる状況を整えておくことも前向きに検討して良いでしょう。

 

以下、参考資料・HP等一覧

[1] 厚生労働省「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(座長:菅野和夫教授)(2005[平成17]年9月)では、試用期間を設ける場合の上限を定めることが適当と提案されています。

[2] ブラザー工業事件・名古屋地判昭和59年3月23日労判439号64頁、

[3] 大阪読売新聞事件・大阪高判昭和45年7月10日労民集21巻4号1149頁

[4] 三菱樹脂事件・最判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁

[5] 東京高判昭和58年12月14日労民集34巻5・6号922頁

[6] 東京地判平成13年7月2日労経速1784号3頁

[7] 東京地判平成13年12月25日労経速1789号22頁

[8] 東京地判平成13年2月27日労判809号74頁

[9] 大阪地判平成12年8月18日労判793号25頁

[10] 在職者の能力開発に関するデータ(厚生労働省「能力開発基本調査」)

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長谷川 周吾

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