2024.07.31
情報通信(IT)業でよくある労務トラブルと知っておくべきポイントについて弁護士が解説!



与能本 雄也
弁護士一人一人のご依頼者様の想いを伺い、一人一人に合わせた最適な解決法を共に考え、実現できるよう取り組んでまいります。
また、最適な解決法をご提案するにあたり、日々専門知識を研鑽してまいります。
1 情報通信(IT)業とは?
情報通信(IT)業とは、情報技術(Information Technology)を活用したサービスや製品を提供する事業です。
情報通信(IT)業として、一括りにされて話をされることも多いですが、ソフトウェア事業、ハードウェア事業、情報処理サービス事業、インターネット・WEB事業、通信インフラ事業など、様々な種類の事業が含まれており、更に企業向け、消費者向け、企業と消費者の間で行われる事業などに分かれます。
2 情報通信(IT)業を取り巻く概況
情報通信(IT)業は、成長企業も多く、革新的な技術やサービスを開発・提供して日々ニュースなどで華々しく報道がされているイメージがあると思います。他方、IT需要の拡大に伴い、優秀なIT人材が常に求められており、人材が不足しやすく、長時間労働に陥りやすい環境のある業界ともいえます。
3 情報通信(IT)業の特徴について
情報通信業の労働関連における特徴とはどのようなものでしょうか。
厚生労働省労働基準局の資料によると、情報通信(IT)業は、年間総実労働時間1,933時間(全産業平均1,724時間)、所定外労働時間198時間(全産業平均129時間)と高水準であり、長時間労働等を原因とする脳・心臓疾患、精神障害の労災補償支給決定が多い業種の一つとされています。
また、IT人材の不足は今後より一層深刻化する可能性が高く、IT業界の長時間労働削減の対策を推進することが求められるとされています。
参考:(厚生労働省労働基準局「IT業界の長時間労働対策について」
また、情報通信(IT)業においては、納期の決まったプロジェクトベースの仕事が多く、例えばソフトウェア事業などにおいては、元請け先から下請け先に仕事を委託し、更に下請に委託するような多重下請けがなされることも多く、短い納期に間に合わせるために、長時間労働となったり、メンタル不調を起こすことも少なくありません。
4 情報通信(IT)業で発生しやすい労務トラブル
前項で説明したように、人手不足や納期が決まっていることなどから、情報通信(IT)業では時間外労働が発生しやすいため、一定の役職以上の者を管理監督者としたり、裁量労働制や固定残業代制度を採用したりすることが多くあります。
もっとも、このような制度を採用したところ、労働基準法(以下「労基法」といいます。)の要件を満たしてないなどの不備があることで、多額の未払い残業代請求がされてしまうようなケースも多くあります。
以下、情報通信(IT)業特有の労務の問題についてご説明します。
(1)管理監督者の問題
管理監督者(労基法41条2号)とは
労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者を指します。管理監督者に該当した場合は、労基法に定める労働時間、休息及び休日に関する規定が適用されなくなります。
情報通信(IT)業においても、管理監督者の制度が活用されています。しかし、管理監督者に該当しないにも関わらず、管理監督者として取り扱ってしまい、未払い残業代のトラブルに発展するケースも多くあります。そのため、管理監督者に該当するかについては、慎重に判断する必要があります。
管理監督者の要件は、行政実務及び判例上、
① 事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること
② 自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
③ 一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていることが必要とされています。
そして、「管理監督者」は、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者を指し、名称に捉われず、実態に即し判断すべきとされています(昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発)。
では、通常のマネージャー職や課長職などはどうでしょうか。
前述のとおり、名称で一概には判断できませんが、通常は、経営者と一体的立場とはいえず、「事業主の経営に関する決定に参画し」ていないことが通常ですので、認められないことが多いと考えられます。
例えば、裁判例(東京高判平成30年11月22日労判1202号70頁 コナミスポーツクラブ事件)は支店長職またはマネージャーの管理監督者性が問題となった事案ですが、①②③のすべての要件について該当しないものとして管理監督者性を否定しています。
また、情報通信(IT)業でみられる「プロジェクトマネージャー」職についても、プロジェクト単位の責任者であり、経営者と一体的立場とまでいえるかはケースによりますので、実態に即して判断することが重要です。
例えば、裁判例(東京地判平成23年3月9日労判1030号27頁 エス・エー・ディー情報システムズ事件)は、ソフトウェア開発・販売及び情報処理サービス業のプロジェクトマネージャーにつき、「他の従業員に比して厚遇を受けていたということはできる」(③の要件)としつつ、「原告の出退勤時間における「自由裁量」を基礎付けることはできない」(②の要件を否定)とし、「プロジェクトマネージャーとしての関与を超えて,他の従業員が接することができない機密事項等に接していたことを認めるに足りる証拠はない」「原告が従業員の労務管理において広範な裁量権を有していたとは解し難く」等として(①の要件を否定)管理監督者性を否定しています。
以上のように、管理監督者の制度は、役職の名称にとらわれず、実態に即して判断する必要がありますので、該当性の判断が難しいケースも多くあります。「管理監督者」の要件に該当しないにもかかわらず、会社が従業員を管理監督者として扱っている場合には、多額の未払い残業代を請求されるリスクがあります。ですので、トラブルが発生する前に、弁護士を活用して、トラブルを未然に防ぎましょう。
(2)専門業務型裁量労働性
専門業務裁量労働制とは
業務の性質上、大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある専門業務に従事する労働者の労働時間について、実際に稼働した実労働時間ではなく、会社があらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です(労基法38条の3)。
専門業務型裁量労働制の対象業務は、上述の大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務として、厚生労働省令で定められたものが対象となります。
そのうち情報通信(IT)業に関連する業者を紹介します。
(ア)「情報処理システムの分析又は設計の業務」
「情報処理システムの分析又は設計の業務」が対象業務となっています(労基則24条の2の2第2項2号)。一般的にはシステムエンジニア(SE)と呼ばれる業種となります。
「情報処理システムの分析または設計の業務」とは、以下のとおりとされています。
そのため、単なるプログラムの開発やテストを行うだけのプログラミング業務は該当しないこととなるため注意が必要です。
あくまで、個別ケースにおける事例判断となりますが、プログラミング業務を行っていた労働者について専門業務型裁量労働制の適用が否定された裁判例があります。
「大阪高判平成24年7月27日労判1062号63頁 エーディーディー事件」
「情報処理システムの分析又は設計の業務」に該当するかについて、原審での「プログラミングについては,その性質上,裁量性の高い業務ではないので,専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解される。」との判断を引用し、プログラミング業務が専門業務型裁量労働制対象業務に含まれないと判示しています。
(イ)「システムコンサルタントの業務」
その他には、「事業運営において情報処理システム……を活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務」(労基則24条の2の2第2項6号)が対象業務となります。一般的には「システムコンサルタントの業務」と呼ばれる業務です。
①「情報処理システムを活用するための問題点の把握」とは、現行の情報処理システム又は業務遂行体制についてヒアリング等を行い、新しい情報処理システムの導入又は現行情報処理システムの改善に関し、情報処理システムを効率的、有効に活用するための方法について問題点の把握を行うことをいうものであること、②「それを活用するための方法に関する考案若しくは助言」とは、情報処理システムの開発に必要な時間、費用等を考慮した上で、新しい情報処理システムの導入や現行の情報処理システムの改善に関しシステムを効率的、有効に活用するための方法を考案し、助言(専ら時間配分を顧客の都合に合わせざるを得ない相談業務は含まない。)することとされています。
(ウ)「ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」
「ゲーム用ソフトウェアの創作の業務」についても専門業務型裁量労働制対象業務として認められています(労基則24条の2の2第2項6号)。
「創作」とは、シナリオ作成(全体構想)、映像制作、音響制作等が含まれるものであることとされています。
また、「専ら他人の具体的指示に基づく裁量権のないプログラミング等を行う者又は創作されたソフトウェアに基づき単にCD-ROM等の製品の製造を行う者は含まれないものであること」として、プログラマーは除外されています。
以上のように、裁量のない単なるプログラマーが除かれるなど、専門業務型裁量労働制は、その業務が適用されるかどうかの判断が難しいケースがあります。専門業務型裁量労働制の適用がないのにもかかわらず、専門業務型裁量労働制が適用されるものとして取り扱った場合には、多額の未払い残業代を請求されるリスクがあります。専門業務型裁量労働制を導入する場合やリスクを検討するために、弁護士を活用しましょう。
(3)外国人システムエンジニア(SE)の採用
情報通信(IT)業では、外国人のシステムエンジニア(SE)を採用することも多くあります。外国人を雇用する場合は、その外国人が適法に在留し、就労できる状態かどうかを書面で確認する必要があります。
以下の点を確認するとよいです。
◆入国要件 | パスポート、入国査証(ビザ)等 |
◆就労資格 | 在留資格 |
◆在留期間 | 在留資格に定められた在留期間 |
◆現住所 | 在留カード等 |
5 情報通信(IT)業界特有の問題への弁護士による法的対応
労働時間が多くなりがちな情報通信(IT)業において、管理監督者、裁量労働制、固定残業代等の制度を活用する場合、労基法の要件を満たしているか等制度に不備が無いかが重要となります。トラブルが発生する前に、弁護士を活用して、リーガルチェックを受けましょう。
また、未払い残業代を請求されてしまったなど、既にトラブルが発生してしまった場合は、弁護士が、交渉、労働審判や訴訟の対応をして紛争を解決することができますので、弁護士に相談しましょう。
6 情報通信(IT)業界における虎ノ門法律経済事務所の解決実績
当事務所では、情報通信(IT)業の顧問先も多く、労務問題に関するリーガルチェックのご相談を多数お受けしています。また未払い残業代を請求されたり、解雇無効を争われたりなどのトラブル発生後の交渉、労働審判、訴訟対応に関与した実績も多くあります。
まずは弁護士にご相談ください
まだトラブルが発生していない場合でも、上記のように労基法の要件を満たしておらず、従業員から未払い残業代を請求される潜在的なリスクが存在している場合があります。トラブルが発生する前にリーガルチェックを受けるなど、弁護士を活用しましょう。
また、現にトラブルが発生してしまった場合においては、交渉対応、労働審判や訴訟対応に弁護士が必要となると思いますので、まずは弁護士にご相談ください。


与能本 雄也
弁護士一人一人のご依頼者様の想いを伺い、一人一人に合わせた最適な解決法を共に考え、実現できるよう取り組んでまいります。
また、最適な解決法をご提案するにあたり、日々専門知識を研鑽してまいります。
① ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びそ
の方法に適合する機種の選定
② 入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細
部の決定、ソフトウェアの決定等
③ システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務
をいうものであること。プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれないも
のであること