2025.03.18
パワハラで労災は認定される?会社の対応と精神疾患による認定事例について弁護士が解説!



福原 玲央
弁護士それぞれの依頼者のお気持ち、依頼内容に真摯に向き合うことによって、依頼者の気持ちに沿える解決策に導けるよう全力で業務に邁進してまいります。
1 精神疾患・精神障害と労災
近年、仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が関係した精神障害について、その労災請求件数及び支給決定件数が増加し続けています
(厚生労働省「過労死等の労災補償状況」「別添資料2 精神障害に関する事案の労災補償状況」)。
仕事が主な原因で発病した精神障害は、「過労死等」とも呼ばれるもので、業務における過重な負荷による脳・心臓疾患を原因とする死亡、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡またはこれらの脳・心臓疾患、精神障害をいいます(過労死等防止対策推進法第2条)。
その中でもパワーハラスメント(パワハラ)の被害によってうつ病などの精神疾患・障害を発病したときに、労働災害として労災保険給付を受けられるのはどのような場合でしょうか。また会社はどう対応すべきか、或いは精神疾患による認定事例はどのようなものがあるのでしょうか。
なお、ここでの前提となるパワハラの定義ですが、職場において行われる以下の3つの要素を全て満たす言動とされます。
① 優越的な関係を背景とした言動で
② 業務上必要かつ相当な範囲を超え
③ 就業環境が害されるもの
2 労災認定の基準・要件
厚生労働省では、労働者に発病した精神障害が業務上災害として労災認定できるかを判断するために、「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めています。この精神障害の労災認定のための要件は、次のとおりです。
① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
このうち、②は「精神障害の発病前の6か月間に、仕事で起きた「出来事」が発病とどの程度強い関係があるのか」を評価するものです。
◇精神障害の原因となった「出来事」は3段階で評価される
この仕事で起きた「出来事」が発病とどの程度強い関係があるのか」の評価ですが、まず評価には「弱」「中」「強」の三段階があり「強」の評価ほど「仕事によるストレス」と判断されるようになります。
そして、その評価の前提となる「出来事」の分類にあたっては、認定基準の別表「業務による心理的負荷評価表」というものが使用されます。
その表では、「出来事」は「特別な出来事」と「特別でない出来事」の2つに分類され、「特別な出来事」に該当する場合には「強」となり、そうでない場合には3段階の評価が行われます。
そして、令和2年6月から改正労働施策総合推進法が施行され、パワーハラスメントの定義が法律上規定されたこと等を踏まえ、認定基準の別表「業務による心理的負荷評価表」にパワーハラスメントが明示されました。
この施行以前にもいわゆるパワーハラスメントにより発症した精神障害が労災認定されることはありましたが、パワーハラスメントを評価表に明示し、出来事をより具体化することにより、パワーハラスメントを原因とした労災請求を容易化し、審査の迅速化を図ることとしたのです。
また、令和5年9月には、厚生労働省が「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正しています。
これらを統合すると、パワハラによる精神障害の労災認定のための要件は、①と③については上記と同様ですが、②について、最新の「心理的負荷による精神障害の認定基準」内の別表1「業務による心理的負荷評価表」の項目「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」に該当し心理的負荷の強度が「強」となることが必要となります。
下記では、認定基準の当該3つの要件について、具体的な内容と、その該当性を見てみましょう。
3 要件① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
認定基準の対象となる精神障害は、国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第5章「精神および行動の障害」に分類される精神障害を指し、認知症や頭部外傷などによる障害(F0)及びアルコールや薬物による障害(F1)は除きます。
このうち、うつ病(F3)や急性ストレス反応(F4)が、業務に関連して発病する可能性のある精神障害の代表的なものと言われています(厚生労働省「精神障害の労災認定」)。
分類コード | 疾病の種類 |
F0 | 症状性を含む器質性精神障害 |
F1 | 精神作用物質使用による精神及び行動の障害 |
F2 | 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害 |
F3 | 気分[感情]障害 |
F4 | 神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障 |
F5 | 生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群 |
F6 | 成人の人格及び行動の障害 |
F7 | 知的障害<精神遅滞> |
F8 | 心理的発達の障害 |
F9 | 小児<児童>期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害、詳細不明の精神障害 |
4 要件② 精神障害の発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
(1)心理的負荷の判断方法
認定要件「発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」については、対象疾病の発病前おおむね6か月の間に業務による出来事があり、当該出来事及びその後の状況による心理的負荷が、客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であると認められることを言います。
労災保険制度は、業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化して労働者に傷病等をもたらした場合には、使用者に過失がなくても、損失補塡の責任を負わせるべきとする危険責任の法理に基づくものです。
そのため、心理的負荷の評価に当たっては、発病前おおむね6か月の間に、対象疾病の発病に関与したと考えられるどのような出来事があり、また、その後の状況がどのようなものであったのかを具体的に把握し、その心理的負荷の強度を判断します。
その際、精神障害を発病した労働者が、その出来事及び出来事後の状況を主観的にどう受け止めたかによって評価するのではなく、同じ事態に遭遇した場合、同種の労働者が一般的にその出来事及び出来事後の状況をどう受け止めるかという観点から評価するわけです。
なお、 この「同種の労働者」とは、精神障害を発病した労働者と職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する者をいいます。
つまり、業務による心理的負荷については、別表1「業務による心理的負荷評価表」を指標として、上記把握した出来事による心理的負荷の強度を、「強」、「中」、「弱」の三段階に区分して判定します。
(2)「特別な出来事」に該当する出来事がある場合
まず、「業務による心理的負荷評価表」の「特別な出来事」に該当する出来事が認められた場合には、心理的負荷の総合評価が「強」とされます。
ただし、いずれも極度の負荷と評価されるような特別なケースが想定されており、評価表内の具体例内にパワハラの項目(22)が引用されていないことからも、パワハラによる精神障害が「特別な出来事」に該当することは少ないでしょう。
特別な出来事の類型 | 心理的負荷の総合評価を「強」とするもの |
心理的負荷が極度のもの |
・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした(業務上の傷病による療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)…項目1関連
・業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意によるものを除く)…項目3関連 ・強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた…項目29関連 ・その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの |
極度の長時間労働 | ・発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った…項目12関連 |
(3)「特別な出来事」に該当する出来事がない場合
「特別な出来事」以外のパワハラによる精神障害を検討するにあたっては、「業務による心理的負荷評価表」の項目22に「パワーハラスメント」が記載され、心理的負荷の程度が「強」と判断する具体例として以下が挙げられています。
性的指向・性自認に関する精神的攻撃等も含まれるものです。
ただし、「具体例はあくまでも例示であるので、具体例の「強」の欄で示したもの以外は「強」と判断しないというものではない」ことや「ハラスメントやいじめのように出来事が繰り返されるものについては、繰り返される出来事を一体のものとして評価し、それが継続する状況は、心理的負荷が強まるものと評価する。」ことも認定基準の通達には記されています。
したがって、あくまで労働基準監督署の調査に基づき総合評価がなされる以上、会社としては具体例以外の出来事であったとしても慎重にハラスメント行為を分析し繰り返し行われていないかなどの確認をする必要があるでしょう。
なお、「パワーハラスメント」に該当しないことが明らかであったとしても、上司と部下の間で仕事をめぐる方針等において明確な対立が生じたと周囲にも客観的に認識されるような事態や、その態様等も含めて業務上必要かつ相当な範囲内と評価される指導・叱責などが認められる場合は、項目24で評価されます(厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準に係る運用上の留意点について」別紙2)
5 要件③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因による発病ではないこと
認定要件のうち、「業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと」とは、「業務以外の心理的負荷及び個体側要因が確認できない場合」又は「業務以外の心理的負荷又は個体側要因は認められるものの、業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合」のどちらかの場合を指します。
このうち業務以外の心理的負荷については、認定基準の別表2の「業務以外の心理的負荷評価表」を用い、強度を評価することになります。具体的には、① 自分の出来事、② 自分以外の家族・親族の出来事、③ 金銭関係、④ 事件・事故・災害の体験、⑤ 住環境の変化及び⑥他人との人間関係が、出来事の類型として挙げられています。
個体側要因については、精神障害の既往歴やアルコール依存状況などがある場合に、その内容等について確認し、顕著な個体側要因がある場合には、それが発病の原因であるといえるか、慎重に判断されます(厚生労働省「精神障害の労災認定」)。
6 認定事例・参考裁判例
(1)認定事例・裁判例
ア 内部通報に関与したうわさがあることを理由として嘱託社員への登用につき保留された事実関係についての心理的負荷の強度は「中」であるが、上司により約2か月の間に連続して行われた身体的接触や性的な言動については開始時から一体としてハラスメントを構成するとして心理的負荷の強度を「強」と認定し、それらの行為を受けた労働者の精神障害(うつ病)発病の業務起因性を肯定した事例(札幌地判令和2・3・13労判1221・29)。
イ 業務上のミスに対し、大声で、最初から責任があると決めつけて叱責するなど理不尽な叱責がなされ、それが暴力を伴ったものではなく、人格を否定したものとまでは認められないとしても、不適切な表現や業務指導に直接関連しない言動が繰り返されており、心理的負荷は相当強く、さらにうつ病発症前6か月間は、月80時間に満たない時間外労働であるとしても、それより前から恒常的な長時間労働が認められ、これと叱責等を関連づけると、心理的負荷は総合評価として「強」となるとして、うつ病発症について業務起因性を認めた事例(京都地判平27・9・18労判1131・29)。
(2)不認定事例・裁判例
ア 会社内の同じチームに所属する社員から「なぜこれを間違えるのか」と大きな声で叱責された事実を認定することはできず、当該チームの統率者から、計画より遅れている理由を問われて、惨めな気分があると報告したにもかかわらず、上司が翌日の残業届を提出するよう伝えたことは、上司とのトラブルに該当するとしても、その心理的負荷は「中」ないし「弱」にとどまるとして、業務起因性を否定した事例(東京地判令4・5・19労経速2508・26)。
イ 介護施設の入居者に対応することが遅くなったことにより謝罪をしたこと、入居者から現金を渡されずに振込手続を依頼されたこと(ただし、振込は行わなかった。)、入居者の付添い中に転倒事故が起きたことなどは、いずれも心理的負荷は「弱」であり、労働者のうつ病発症に業務起因性は認められないと判断した事例(東京地判平30・5・30労判1220・115)。
7 会社はどう対応するべきか
労災請求への対応方法
詳細は別記事に譲りますが、パワーハラスメント事案に限られない労災請求への事業主の対応について簡単にご説明します。
まず、労災申請があった場合、会社は申請について一定の協力をすることが義務付けられています(労災保険法施行規則23条)。
具体的には「手続についての助力」と「必要な証明」が求められています。
① 手続についての助力
労災を申請するのは、あくまで被災者(労働者)本人です。
しかし、事故等による怪我等のために自分で労災請求の手続が困難な被災者については、「事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。」とされています(労災保険法施行規則23条1項)。
② 必要な証明の義務
労災の申請にあたっては、一定の項目について事業主の証明を受けたうえで申請することが求められています。
そして、事業主は、「必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない」とされています(労災保険法施行規則23条2項)。
労災申請のための請求書には、「事業主証明欄 」があり、「証明日」「事業の名称」「事業主の電話番号」「事業場の所在地」「法人名」「代表者名」等を記入して証明することになります。
もっとも、この証明は申請書の事業主証明欄を記載してしまうと、事業主として、発症の前提となる事実関係を認めたことになりかねません。
そこで、証明するとしても事業主証明で求められる証明項目のうち、証明可能なものについてのみ証明すべきです。この場合、事業主証明欄自体は記載しないことになりますが、記載がなくても、労災申請は可能です。
8 最後に
労災請求の認定不認定を問わず、パワーハラスメントを受けたことによるメンタルヘルスの不調がうつ病などの精神疾患を発症する要因にもなること自体は争いが無く、仕事によるストレス(業務による心理的負荷)が関係した精神障害は近年増加しています。
そして、事業主は、雇用している労働者の安全配慮義務の一環として、パワーハラスメント防止措置が義務づけられているのみならず、労働者がメンタルヘルス疾患に罹患しないよう配慮し、労働者の業務上の心理的負担の程度を把握するための検査(労働者に対するストレスチェック)が義務付けられています。
そうすると、会社としては、パワハラや労働者の健康問題を放置すると、労災請求はもちろん、別途安全配慮義務違反などを問われ損害賠償請求がなされることがあり、会社の代表取締役個人や上司等のハラスメント行為者も民事上の損害賠償責任を問われる可能性があります。
さらに、こうした民事責任のほかに、SNS等を通じたインターネットでの拡散・監視がなされる現代では、ブラック企業などのネガティブな評判が広がり会社の各活動及び企業価値が毀損するレピュテーションリスクが高いものです。
特に、パワハラによる労災請求では、「上司(経営者を含む)等との職務上の関係」や「会社の対応の有無及び内容、改善の状況等」といった要素も、心理的負荷の総合評価の対象となります。
そこでまず、会社としては、どのような行為が労災請求の前提となるパワハラに当たるのか、パワハラによる労災認定基準はどのようなものか、会社内で周知及び理解を深める必要があるでしょう。また、適正な業務目標の設定や適正な業務体制の整備を心がけパワハラを防止することに加え、パワハラによる疾患・傷害の悪化を防止する規則や就業上の措置、治療や職場復帰に関する労働者への支援策なども予め定めておくことも考えられるところです。そして、パワハラの端緒となるような事実が発覚した場合には、速やかに社 内調査と是正措置を図ることが求められます。
これらは多分に専門的であるところ、会社及び代表者或いは担当者で抱え込まず、積極的に法律専門家へ相談し、日頃から継続的な労務管理のサポートを受けることをおすすめいたします。その際には、労災請求も絡むことから、労災対応・労災事件に詳しい弁護士や社会保険労務士の在籍・連携がある事務所に、ご相談・ご依頼されることがより効果的でしょう。


福原 玲央
弁護士それぞれの依頼者のお気持ち、依頼内容に真摯に向き合うことによって、依頼者の気持ちに沿える解決策に導けるよう全力で業務に邁進してまいります。
ア 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
イ 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執押に受けた場合
ウ 上司等による次のような精神的攻撃等が反復・続続するなどして執押に行われた場合
・人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など、態様や手段が社会通常に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃
・無視等の人間関係からの切り離し
・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制する等の過大な要求
・業務上の合理性なく仕事を与えない等の過小な要求
・私的なことに過度に立ち入る個の侵害
エ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃、精神的攻撃等を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社がパワーハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく、改善されなかった場合